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LGが切り拓く「AIの実世界実装」:画面を飛び出し空間をオーケストレーションする「Affectionate Intelligence」とヒューマノイドロボットCLOiDの全貌(CES2026報告)

  • 執筆者の写真: Komiya Masahito
    Komiya Masahito
  • 1月15日
  • 読了時間: 9分

1. 画面の中のAIから「実世界のAI」へ:LGが提唱する新たなパラダイム

AI技術が爆発的な進化を遂げ、世界中がその潜在能力に熱狂している。しかし、真のイノベーションとは「人々の生活を実際にどう豊かにするか」という問いに答えるものでなければならない。テクノロジーが進化を急ぐあまり、ユーザーを急かし、アップデートを強要するような状況は本末転倒である。

この課題に対し、LGは独自のビジョンである「Affectionate Intelligence(愛情深い知能)」を掲げ、AIの役割を再定義している。このビジョンの核心は、AIが画面やデバイスの枠を飛び出し、現実世界の人々のために機能し始めるというパラダイムシフトにある。

AIにとって、最も理解が困難な空間は「家庭」である。なぜなら、家は住む人の習慣、文化、複雑な感情が反映された、世界で最もプライベートで多様な環境だからだ。世間ではAIによる自動化が叫ばれているものの、現実の家庭では依然として掃除や家族のケアといった家事の多くが人間の手によって行われている。しかし、家電およびコンシューマーエレクトロニクス分野で約70年の歴史を持ち、世界中の生活空間に無数のタッチポイント(接点)を有するLGにとって、これは強固な競争優位性となる。顧客の実際のライフスタイルを深く理解しているという強みを活かし、LGは「顧客に自由な時間を返すこと」を究極の目標とした「ゼロレイバーホーム(労働ゼロの家)」の実現に向けたロードマップを提示した。


内容に関するインフォグラフィック
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2. 究極の没入感とマルチAIエコシステム:次世代「Wallpaper TV」の衝撃

この「ゼロレイバーホーム」の中核を成すリビングルームの体験において、ハードウェアとソフトウェアの両面で劇的な進化を遂げたのが、最新の「Wallpaper TV」である。2017年に発表された象徴的なモデルから進化し、鉛筆ほどの薄さである9mmクラスの極薄フォームファクタの内部に、回路やスピーカーなどすべてのコンポーネントを完全に統合している。

本製品の最大の技術的ブレイクスルーは、LG独自の「True Wireless技術」による完全ワイヤレス化である。世界で初めて超低遅延の4K 165Hzロスレスビデオ・オーディオ伝送を実現し、映像信号を送信する「Zero Connect box」も従来モデルから35%の小型化を達成しつつ、パフォーマンスを向上させている。画質面では、新たな「Hyper Radiant Color」技術と反射防止技術により、明るい部屋でも完璧な黒と色彩を表現し、従来比で3.9倍の明るさを実現した。

これを駆動するのが、新たにアップグレードされた「Alpha 11 AIプロセッサ Gen 3」である。デュアルAIエンジンをベースとし、2種類のAIアップスケーリングを同時処理するこのプロセッサは、従来比で処理速度が5.6倍、CPUパワーが50%、GPU性能が70%向上という圧倒的なスペックを誇る。さらに、「Dolby Atmos Flex Connect」を搭載した世界初のサウンドバーシステム「LG Sound Suite」と連携し、最大50通りのスピーカー配置で複雑な設定なしに没入感のある音響空間を構築できる。

しかし、ハードウェアはLGが目指す究極のAI体験を実現するための手段に過ぎない。スマートTV向けOS「webOS」は、業界を牽引するGoogle GeminiおよびMicrosoft Copilotと深く統合され、高度なマルチAIエコシステムを形成している。リモコン「LG AI Mavic remote」を通じてAIコンシェルジュを呼び出せば、視聴中のコンテンツに関する情報をオーバーレイ表示し、生成AIを活用した「LG Gallery Plus」によって想像した画像をその場で生成・表示することが可能だ。また、「My page voice ID」機能が家族の声を個別に認識し、個人の好みに最適化されたダッシュボードを提供する。これらの高度にパーソナライズされた体験は、ハードウェアベースの鍵管理と高度な暗号化を組み合わせたセキュリティ機能「LG Shield」によって強固に保護され、データの安全性を担保している。


3. 単なる家電から「自律型エージェント」へ進化するキッチン空間

AIによるイノベーションは、エンターテインメントの枠を超えてキッチン空間にも及んでいる。最新の「LG Signature」シリーズは、単にAI機能を搭載するだけでなく、自ら状況を判断して複雑な目標を達成する「インテリジェント・エージェント(Agent Appliances)」へと進化している。

象徴的なのが、大規模言語モデル(LLM)を組み込んだ冷蔵庫である。両側のドアに大型のT-OLEDディスプレイを搭載したこの製品は、自然言語による音声対話が可能である。例えば「肉を数日保存したい」と伝えれば、AIが最適な保存期間を判断し、短期保存向けの「Meat mode」や長期保存向けの「Meat soft freeze mode」などの適切なゾーンを提案・自動調整し、消費期限までアドバイスする。内蔵カメラと「ThinQ food」機能は、庫内の食材を識別して最適なレシピまで提案する。

オーブンレンジにもカメラが内蔵されており、「Gourmet AI」が調理中の料理を視覚的に認識し、85種類以上の中から最適な調理モードを提案する。例えばクロワッサンを焼く場合、「AI Browning」機能がカメラ映像を通じて焼き上げプロセスを微調整し、完璧なきつね色になった瞬間に通知を行う。 これらのデバイスは、インテリアに溶け込む「Seamless」、ゴールドのアクセントが特徴の「Iconic」、カスタマイズ可能な「Tailored」という3つのラグジュアリーなデザインコレクションで展開され、機能性と審美性を高次元で融合させている。


4. ホームロボット「CLOiD」とThinQプラットフォームが創る「アンビエント・ケア」

家電製品が高度に知能化される中で、それらを空間全体として統合・連携(オーケストレーション)させるのが、ホームロボット「CLOiD」の役割である。

LGが提示するAIホームのユースケースは非常に具体的だ。例えば、ユーザーの帰宅に合わせてAIが「降雨量10mm/hの雨が降るため、外でのジョギングではなくホームワークアウトに切り替える」ことを提案する。さらに、冷蔵庫内の玉ねぎ、バター、チーズを検知し、雨の日に適した「フレンチオニオンスープ」のレシピを壁掛けオーブンに送信して予熱を開始。同時に、リラックスできる照明への変更や空調の温度調整までが自動で行われる。帰宅時には、CLOiDが濡れたタオルを受け取り、自律的に洗濯を開始する。このように、デバイスと空間が連携して居住者を支援する概念を、LGは「アンビエント・ケア」と呼んでいる。

CLOiDの滑らかで精密な動きを支えているのは、長年培われたモーション技術の結晶である「アクチュエーター技術」だ。モーター、ギア、制御システムを高度に統合し、周囲の状況や文脈を認識しながらバランスの取れた物理運動を実現する。

これらの機器群を裏で統括するのが、「ThinQ」プラットフォームの3つの柱である。

  1. ThinQ On: AIホームの中央コントローラーとして機能するハブ。

  2. ThinQ Up: ライフスタイルの変化に合わせて家電製品を継続的にアップデートし、使用パターンを分析してパフォーマンスを最適化する。

  3. ThinQ Care: トラブルの発生を未然に防ぐプロアクティブなサポートを提供し、24時間365日のケアを実現する。

さらにLGは、ロボティクスの未来を決定づける「VLA(Vision, Language, Action)モデル」の研究開発に深く投資している。限られたデータでも迅速にパフォーマンスを最適化するAIアルゴリズムを構築し、大手テック企業との協業により、触覚や力のデータを含む大規模データセットを構築している。このコア技術は家庭内に留まらず、多様なペイロードや動作が求められる産業用ロボットシステムへの拡張性も秘めている。


5. 車内空間を「第2のリビング」へ昇華させるモビリティ革新

「Affectionate Intelligence」の哲学は、家庭からモビリティ空間へとシームレスに拡張される。LGは自らを単なる自動車部品サプライヤーではなく、車両をスマートでパーソナライズされた空間に変革する「Experience Architect(体験の設計者)」と定義し、「Best Innovation in the in-vehicle entertainment」を受賞するなど高い評価を得ている。

その中核となる「インキャビンセンシングシステム」は、乗員の視線やジェスチャーをリアルタイムで追跡し、意図を深く理解する。自動運転が有効になると、ダッシュボードは直感的な3Dインターフェースへと切り替わる。助手席の乗員が窓の外の看板に視線を向け、ジェスチャーを行うだけで、ディスプレイ上に製品の3D情報が立ち上がり、車内でエンドツーエンドのショッピングが完了する。後部座席では、自宅で視聴していたコンテンツが窓ガラスのディスプレイにシームレスに引き継がれ、移動中も途切れることのないエンターテインメントを提供する。

さらに革新的なのは、車載カメラとAIによる高度なハンドジェスチャー認識機能である。車外にいる人の手話をリアルタイムで翻訳し、双方向のコミュニケーションを可能にすることで、物理的な空間を超えた繋がりを実現している。

運転席のフロントガラスも「インテリジェントキャンバス」と呼ばれる拡張ディスプレイへと進化する。信号のカウントダウンや車線案内が実際の道路上にAR(拡張現実)として投影されるだけでなく、自動運転中の退屈なトンネル内の風景を、桜の花びらが舞うリラックスできるデジタル風景に変換することも可能だ。これらすべての体験は、インフォテインメントやADAS視覚システム、パワートレインに至るまでを統合する「オンデバイスのマルチモーダル汎用AIプラットフォーム」によってリアルタイムで制御されている。


6. AI社会の基盤を強固にする「次世代データセンター冷却ソリューション」

LGの革新は、個人の住宅やモビリティ空間のみならず、AI社会そのものを裏から支える産業・インフラ領域にまで及んでいる。AI技術の進化に伴う膨大なコンピューティング需要の爆発により、データセンターの重要性はかつてないほど高まっている。

高度なHVAC(冷暖房空調設備)ソリューションの世界的リーダーであるLGは、この課題に対し、近代的なデータセンター向けに完全に統合された熱管理ソリューションを提供している。Green Revolution Cooling(GRC)社やFlex社といった業界リーダーとの協業を通じ、**液浸冷却(Liquid immersion cooling)**を含む最先端の冷却技術の開発を推進している。

これらのシステムは、LG独自のチラー(冷却水循環装置)、冷媒分配ユニット(CDU)、Beacon Cloudなどの技術基盤によって構築されている。さらに、UAE(アラブ首長国連邦)やサウジアラビアといった急成長地域と戦略的パートナーシップを結び、グローバルなインフラアーキテクトとしてのプレゼンスを確立している。冷却システム自体が自律的に思考し、ネットワークが学習を行うインテリジェントなエコシステムを構築することで、金融取引やコンテンツストリーミング、膨大なAI計算といったあらゆるデジタルサービスが、最高のエネルギー効率と強固なセキュリティの下で稼働する環境を支えている。


まとめ:全領域を統合し「Life's Good」を体現するLGの青写真

リビングルームでの究極の視聴体験から、自律的に機能するキッチン家電、家事を自動化するロボット「CLOiD」、移動時間を豊かなパーソナル空間に変えるモビリティソリューション、そしてそれらすべてのデジタル基盤を支えるデータセンターの冷却インフラに至るまで、LGの技術領域は驚くべき広がりを見せている。

これらすべての根底に流れているのは、「Affectionate Intelligence」という共通の哲学である。単なるスペック競争やテクノロジーのひけらかしではなく、実世界で人々の生活をいかにケアし、快適で有意義なものにするか。LGが描くこの壮大なエコシステムは、AIが真の意味で社会実装される未来の明確な青写真であり、同社の「Life's Good」という約束を力強く体現していると言えるだろう。

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