top of page

東南アジアVC・CVCが語るエコシステムの今と日本への期待——テックウィンター環境の次なる成長領域とは(SusHi Tech TOKYO 2025報告)

  • 執筆者の写真: Komiya Masahito
    Komiya Masahito
  • 2025年5月15日
  • 読了時間: 9分

世界的にスタートアップへの投資額が減少傾向にある「テックウィンター」が叫ばれる中、急成長を続ける東南アジア市場では、この状況を「次なる飛躍への準備期間」と捉える前向きな動きが加速している。人口約8億人を擁し、世界で最も急速に成長する東南アジアにおいて、現地のベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は、次世代のイノベーションの種をどこに見出し、どのような協業モデルを描いているのか。本稿は2025年5月に日本で開催されたアジア最大のスタートアップ・イノベーションに関するカンファレンスのSusHi Tech TOKYO 2025の下記セッションの内容を紹介する。東南アジア各国(ベトナム、シンガポール、インドネシア、マレーシア)を代表する投資家らの視点から、エコシステムの最新動向、巨大な実証フィールドを活用したオープンイノベーションの実態、そして高い技術力と長期的な視野を持つ「日本企業への並々ならぬ期待」について詳細に紐解いていく。


SusHi Tech TOKYO 2025
SusHi Tech TOKYO 2025

セッション名:東南アジア5カ国の有力VC・CVCが語る、エコシステム最新情報と日本企業への期待


内容に関するインフォグラフィック
内容に関するインフォグラフィック

1. 「テックウィンター」は本当か? エコシステムの健全化と次なる成長領域

過去数年間、東南アジアを含む世界的な傾向として、スタートアップへの投資が減速する「テックウィンター」が指摘されている。しかし、東南アジアの投資プラクティスにおいて、この状況は悲観視されていない。むしろ、投資家たちはこの局面を「真の価値を見極める好機」と捉えている。

市場の過熱によって過剰に評価されていたスタートアップのバリュエーション(企業価値)が見直されることで、本質的な技術やビジネスモデルを持つ企業を適正に評価できるようになったからだ。さらに、スタートアップが持つ革新的な価値を従来型の企業(大企業など)に提供し、相互に恩恵をもたらす「クローズドループのエコシステム」を構築する動きが活発化している。

■ AIインフラからクライメートテックへのシフト 具体的な成長領域として、急速なデジタル化を背景としたインフラ整備への投資が挙げられる。例えば、AIインフラの構築に不可欠なデータセンターの建設が急ピッチで進む地域では、比較的安価なエネルギー価格を武器に、データセンターを効率的に運用するための量子テクノロジーや高度な冷却技術に大きな注目が集まっている。また、これらの技術は単なるビジネス上の効率化にとどまらず、サステナビリティ(持続可能性)の観点からも重要視されており、「クライメートテック(気候テック)」領域に巨大なビジネスチャンスが生まれている。

■ 若い市場の急成長とAI投資の加速 また、一部の国ではVC市場自体が2019年頃から本格的に立ち上がったばかりであり、プライベートキャピタル全体で約23億ドル、VCのみで約4億ドル規模へと急速な成長を遂げているケースもある。ここでは、リテールや金融サービスに加え、AIや自動化技術への投資が急速に加速している。世界的AI半導体大手が現地のAIスタートアップを買収し、研究拠点を設けるなどの動きも見られ、投資件数は前年比で増加傾向にあるという。

さらに、東南アジアの資金調達トレンドはアメリカ市場からおよそ6〜8ヶ月遅れて推移する傾向があると分析されており、2025年後半には東南アジア市場にも非常に魅力的なエグジット(投資回収)の機会が訪れると予測されている。


2. ディープテックを後押しする政府の強力な支援体制

東南アジアのエコシステムを語る上で欠かせないのが、国を挙げた強力なバックアップ体制である。特に次世代スタートアップの育成を急務とする国では、政府主導でエコシステムを支援する気運が非常に高い。

具体的には、プラットフォームテクノロジーやEコマースに加え、バイオテック、ヘルスケア、半導体、量子技術、ロボティクスといった「ディープテック」分野に対して、民間VCに先行して巨額の資金が投下されている。ある市場では、すでに約4500社のスタートアップが存在し、VCファンディング全体で約50億米ドル規模の資金が拠出されている。こうした政府の積極的な支援を呼び水として、アメリカやヨーロッパのグローバルVCからの資金流入も続いており、ディープテック分野の資金調達環境は極めて堅調に推移していると評価されている。


3. 巨大都市そのものが「実証実験(PoC)の場」となる強み

東南アジアのエコシステムが持つ最大の強みの一つは、現地の巨大コングロマリットが自ら開発・運営する「都市」や「インフラ」を、スタートアップの実証実験(PoC)の場として惜しみなく提供している点にある。

■ 山手線内側と同規模の巨大都市でのイノベーション 例えば、ある巨大プロジェクトでは、山手線の内側とほぼ同じ約6000ヘクタールという広大な敷地に、50万人以上が暮らす都市がゼロから開発されている。この都市は居住者の30〜40%を若年層が占め、世界的IT企業のエクスペリエンスセンターも誘致されている。都市を自立可能で持続的なものにするためには「新しい都市経済」の創出が不可欠であり、その目的のために設立された投資ファンドは、すでに1億6000万ドルを投じて50社のスタートアップに投資を行っている。スタートアップは都市機能にイノベーションを提供し、都市側は巨大な市場をテストベッドとして提供するという理想的なウィンウィンの関係が構築されている。

■ 25万人の学生を抱える「スタートアップの遊び場」 また別の事例では、かつて荒涼とした古い鉱山都市であった広大な土地を、持続可能で統合された近代的な都市へと生まれ変わらせたケースがある。現在ではテーマパークやホテルに加え、25万人もの学生を擁する教育機関が存在している。この巨大なエコシステムは、スタートアップが自らの技術を試し、検証するための「プレイグラウンド(遊び場)」として機能している。ここでは教育、ヘルスケア、不動産、そしてエネルギー転換など、多様な分野でのクロスボーダーな協業プログラムが展開されている。


4. 日本企業に寄せられる期待:成功の鍵は「ローカライズ」と「長期的なコミットメント」

こうしたダイナミックな市場環境において、現地の投資家やエコシステムビルダーたちは、日本企業との協業に強い期待を寄せている。

■ 教育テック事例に見る「徹底したローカライズ」の重要性 日本企業の技術が東南アジアで大きく花開いた好例として、ある日本の教育テック企業の事例が挙げられる。AIがまだ現在ほど一般的でなかった時期に、AIを用いて子どもの心理テストを行い、学習支援に役立てるという日本の技術が、現地の幼稚園や低学年の教育現場に導入された。

成功の要因は、日本の技術をそのまま持ち込むのではなく、現地の言語への翻訳(英語や現地語への対応)を行い、約半年間かけて保護者の反応や市場への影響を丁寧に対面で検証した「ローカライズ」のプロセスにあった。結果として同社は現地にセンターを設置し、さらに周辺国(インドネシアやフィリピンなど)へと事業を拡大する大成功を収めた。日本企業は常に素晴らしい技術をもたらしてくれる存在として、高く評価されている。

■ 日本の「長期的なコミットメント」がエコシステムを育む また、東南アジアのビジネスパートナーが日本企業を高く評価する理由の一つに、「長期的なコミットメント」がある。過去25年間にわたり、日本の大手総合商社や不動産ディベロッパーなどの多くの企業が、現地のコングロマリットとジョイントベンチャー(JV)を組み、着実にビジネスを育ててきた実績がある。

近年では、日本企業が持つ優れた知的財産(IP)を東南アジア市場で収益化するための取り組みも始まっている。現地のローカル企業とのビジネスマッチングを通じて、日本の技術やIPを現地市場のニーズに合わせた形で商品化・展開する動きが活発化しているのだ。さらに、日本企業の製品を東南アジアで採用させ、経済的関係を強化するための「日本テーマ型ファンド」の立ち上げ構想も進んでおり、これが市場のゲームチェンジャーになると期待されている。


5. ディープテック・AI領域における「ソリューションの統合」戦略

日本の優れたディープテックやAIの技術を、東南アジア市場、さらにはグローバル市場へとスピーディーに展開するための具体的な協業モデルも提示されている。

多くのディープテックスタートアップが陥りがちな課題として、優れた技術を持っていても、それが単一の「ポイントソリューション」に留まり、エンドユーザーに直接販売することが難しいという点が挙げられる。しかし、現地の巨大インフラ(航空宇宙、スマートシティ、防衛など)を手がける大企業と組むことで、状況は一変する。

大企業が抱える数万人規模のエンジニアリソースを活用して共同開発(R&D)を行い、自社の巨大なシステムの一部としてその技術を組み込むことで、市場への「ゴートゥーマーケット」を圧倒的に早めることができるのだ。これにより、病院や空港の重要インフラ向けサイバーAIや、海上・陸上輸送プラットフォーム向けの自律化システムなど、社会課題に直結するソリューションを迅速に社会実装することが可能になる。さらに、こうした現地大企業はアメリカ市場などにも強力な販売網(売上の30%を占めるケースも)を持っているため、東南アジアを起点としたグローバル展開への道も開かれる。


6. まとめ:オープンイノベーションへの「ゲートウェイ」を活用せよ

東南アジア市場は、人口1億人で平均年齢32歳といった圧倒的な若さと活気に満ちた国もあるなど、新たな商品やサービスを受容する土壌が整っている。豊富なエンジニア人材を活かしたAI製品の共同開発や、日本の低金利環境と連携した新たな金融商品の提供など、多岐にわたるビジネスチャンスが眠っている。

エコシステムを牽引する投資家たちは口を揃えて「意味のある関係の構築のためには、まず小さくスタートすることが重要だ」と語る。総人口約8億人を擁し、世界で最も急速に成長している東南アジア。そこに根を張る現地のVCやCVCは、日本企業が持つ高度な技術力や長期的な視点を高く評価し、強固なパートナーシップを求めている。

テックウィンターを経て、より本質的な課題解決に向かって洗練されつつある東南アジア市場。彼らを現地エコシステムへの「ゲートウェイ(窓口)」として活用し、共にイノベーションを創出していくことは、次なる成長の果実を手にするための極めて有効な戦略と言えるだろう。


最新記事

bottom of page