ヒューマノイド元年:GMOインターネットグループが築くロボット実装インフラの全貌(Humanoid Summit2026Tokyoレポート)
- 小宮 昌人 / Komiya Masahito

- 4 日前
- 読了時間: 10分
Humanoid Summit2026下記セッションレポート
「Year One of Humanoids — Japan's Deployment Frontline」
Tomohiro Uchida, CEO at GMO AI & Robotics Corporation
インターネットインフラで圧倒的な国内トップシェアを誇るGMOインターネットグループが、これまでの30年の歴史を経て、ロボティクスのインフラを提供する会社へと舵を切り、新たなチャプターへ突入している。2026年5月から日本航空(JAL)と共同で開始した羽田空港における国内初のヒューマノイド実証実験を契機に、すべてのロボット運用を陰から支える存在へと進化を遂げようとする同グループの戦略とその勝算に迫る。

羽田空港で始動した国内初のヒューマノイド実証実験
2026年5月、日本のロボット産業における歴史的なプロジェクトが産声を上げた。GMOインターネットグループと日本航空(JAL)が共同で立ち上げた、日本国内初となる羽田空港でのヒューマノイド実証実験である。
このプロジェクトは、約3年間にわたる長期的なロードマップに基づいて設計された大規模な取り組みである。初期段階の検証領域として、まずは空港内バックヤードにおけるコンテナ搬送業務から実証実験を開始している。一見するとシステム化や自動化が進んでいるように見える近代的な空港だが、その裏側で行われているコンテナの搬送や荷役などのバックヤード業務は、依然として人の手に頼らざるを得ない泥臭いアナログな現場が多く残されている。
既存の空港設備やレイアウトを大規模に改修することなく、人間用に設計された既存のインフラに対して人間の形のまま直接介入できるヒューマノイドは、こうした現場で稼働するための大きな可能性を秘めている。この羽田空港での長期的な取り組みは国内外の非常に多くのメディアに大きく取り上げられ、驚異的な反響を呼ぶとともに、同社に対して多数の問い合わせが寄せられる契機となった。
インターネットの巨人からロボティクスインフラ企業への進化
1995年の創業以来、2025年に創業30周年を迎えた同グループは、インターネットビジネスを支えるコングロマリット企業として成長を続けてきた。グループ傘下の企業数は153社にのぼり、そのうち東京証券取引所などに上場している企業は12社存在する。上場12社の時価総額の単純合計はおよそ1.5兆円規模に達し、グループ内では社員をパートナーと呼び、その総数は8,300名を超える。東京・渋谷に本社を構え、財務実績としては、ドル換算でグループ全体の売上高が1.8 billionドル(約18億ドル)、利益が360 millionドル(約3.6億ドル)を誇る巨大な経営基盤を有している。
同グループは、ネット回線、ドメイン、サーバー、EC決済、セキュリティ、ネット金融(ネット銀行・ネット証券)など、インターネット上でビジネスを展開する上で必須となる、社会になくてはならないインフラを包括的に提供し、すべての領域において国内で主要なトップクラスのポジションを築き上げてきた。これまでは、日本のほとんどのウェブサイトの裏側で何らかのインフラサービスが機能している状態であったが、これからの新チャプターでは、日本で稼働するすべてのロボットの運用インフラにおいて、何らかの形でサービスが組み込まれている状態を作ることを目指す。
このロボティクス部門を牽引する中核組織として設立されたのが、GMO And Robotics商事(GMOアンドロビティクス商事)である。同社の最大の特徴は、自社でヒューマノイドやロボットを自ら製造するわけではないという意思決定にある。世界中で開発されている優れた他社製ヒューマノイドを社会に普及させ、多様な現場に実装し、安定的に運用していくためのサポートに特化しており、この実装と運用の領域こそが果たすべき明確な役割であると定義している。
ロボット運用を支える周辺技術とグループ総合力の連携
ヒューマノイドなどのロボットが実社会の現場で実用的に稼働するためには、ハードウェア単体(機体)が存在するだけでは機能しない。動作を制御し、安全を保証し、ビジネスとして存続させるための多様な周辺インフラや機能が必要不可欠となる。これらは、同グループがインターネットインフラで長年培ってきた領域と極めて相性が良い。
まず、AIおよび基盤モデル開発を支える計算資源として、AIロボット協会が推進するロボット基盤モデルの開発に対し、グループが所有する圧倒的な計算資源であるGPUクラウドを提供し、その開発を全面的に支援している。
通信回線においては、ロボティクス運用に特化して独自に設計・カスタマイズされた、HNのネットワーク回線(ロボティクス専用回線)を開発・提供し、屋外や広大なエリアでも安定したデータ通信とリアルタイムな指令制御を可能にしている。
セキュリティ面では、自律的に動くロボットの社会実装において極めて重要となる、サイバー攻撃やハッキングからの強固な防御体制を構築している。同グループには、世界のハッキングコンテストで3年連続1位を獲得しているほか、AI開発大手のAnthropic社が実施したバグバウンティプログラム(バグ発見報酬プログラム)においても世界1位を獲得している、世界トップレベルのホワイトハッカーが多数在籍している。この極めて強固なセキュリティノウハウを、ロボットプラットフォーム全体に適用するための取り組みを強化している。
さらに、金融・決済インフラの整備も進む。高額なヒューマノイドを企業に導入するためには、リースや金融機能、法的な取引スキームが必須となる。この点において、すでに25万件の銀行口座を保有・提供するGMOあおぞらネット銀行や、国内最大級の決済サービスプロバイダーであるGMOペイメントゲートウェイとの具体的な連携を予定しており、ビジネスを安全かつ円滑に進めるための稼働基盤を確立している。
なぜ2026年がヒューマノイド元年なのか
2026年という時代は、まさにヒューマノイドの本格的な普及が始まる「元年」に位置づけられる。これは、市場における需要サイドと供給サイドの2つの巨大なトレンドが、今まさに強力に交差しているからである。
需要サイドにおいては、圧倒的な関心の高さと、ロボットに対する社会的受容性の高さが証明されている。2025年4月、日本初となるヒューマノイドのレンタル事業が本格的に開始された。開始以降、すでに100件以上の問い合わせを獲得しており、実際に多くの現場へとヒューマノイドロボットを派遣し、稼働させてきた実績を持つ。この派遣事業を通じて浮き彫りになったのは、日本国内におけるロボットに対する心理的抵抗感の極めて低い国民性である。実際に現場にロボットが行くと、人々が自然と集まり、写真を撮りたがり、好意的に受け入れる。この高い関心と社会的受容性は、ヒューマノイドが社会にスムーズに溶け込み、普及するための非常に重要な前提条件を満たしている。
一方の供給サイドにおいては、ロボットメーカー各社の不断の努力により、ヒューマノイドの技術がこの1年間で驚異的なスピードで進化を遂げた。動作の安定性、リアルタイムな制御技術、感情や意図を表現する表現力、そして実際の現場で現場スタッフが扱いやすいユーザビリティといった各要素が、飛躍的に向上している。この「需要の急増」と「供給技術の劇的な技術進化」が完璧に重なり合った現在こそが、ヒューマノイド元年と呼ぶにふさわしい時期なのである。
社会実装を強力に推進する6つの具体的アプローチ
現在、GMO And Robotics商事は単なる一時的な技術デモに留まらず、社会実装に向けた具体的なインフラ構築を以下の6つの軸で進行させている。
レンタル(派遣)事業:実際に現場へヒューマノイドを派遣し、実稼働を繰り返すことで、あらゆる現場の状況に対応するための生データを網羅的に収集・蓄積する。
ヒューマノイドラボ(ショールーム)の開設:東京・渋谷のセルリアンタワー11階のワンフロアを丸ごと活用し、ヒューマノイドラボおよびショールームを開設した。ここは独自のR&D(研究開発)を行う拠点であると同時に、国内外の多種多様なヒューマノイドを同一環境下に一堂に集め、その運動性能や仕様をダイレクトに比較・検証できる最先端のファシリティとして機能している。
技術実証プロジェクト(アスリートモーションの再現):グループには、ニューイヤー駅伝で優勝を果たすほどの実力を持つトップクラスの陸上部がある。このトップアスリートの走る動作をモーションキャプチャーで超精密にデータとして取得し、その学習データをもとに、ヒューマノイドでアスリートレベルの走行動作を再現する開発を進めている。走るという極めて高度な動的制御を実現できれば、歩行時の圧倒的な安定感も当然に担保できるようになり、これがヒューマノイドのあらゆる基本動作を支える確固たる身体制御基盤となる。
グループシナジープロジェクト:ロボットの安定稼働に不可欠となる、独自の通信回線や最高峰のセキュリティシステムを内包したロボットプロジェクトを推進する。
データ収集体制の構築:ロボットの物体認識や作業の最適化を司るモデルを継続的に学習・改善するため、現場でのデータを体系的に収集し、蓄積するための専用工場の準備を進めている。
継続運用のための保守体制(都市保守体制):ヒューマノイドを毎日継続して安定稼働させるためには、故障時の即時対応や日常的なメンテナンス、定期的なアップデートを行う保守体制が絶対に欠かせない。同社は、実用化に向けた広域の保守運用網を急ピッチで構築している。
これら6つの取り組みは、最終的に目指すべきビジョンの「準備段階」に過ぎず、その先にある本格的な社会実装と、日常的な実運用に到達することこそが真の目的であると位置づけている。
労働力不足という日本の危機に挑む
ヒューマノイドの社会実装を極めて高いスピード感で進めなければならない背景には、日本特有の極めて深刻な労働人口の減少というマクロな社会課題が存在する。
現在、日本の合計特殊出生率は1.15という危機的な水準にまで落ち込んでおり、65歳以上の高齢者が占める割合はすでに総人口の約3割に達している。産業の現場における人手不足は、今後さらに加速度的に深刻化していくことが確実視されている。多くの日本企業は世間の想像以上にこの深刻な問題に対して強烈な危機感を抱いており、現場の維持をかけて切実に向き合っている。この社会課題に正面から挑むための象徴的な取り組みが、JALとの羽田空港プロジェクトである。
空港オペレーションにおける構造的圧力は、年々強まっている。日本を訪れる外国人旅行客は急増を続けており、現在は年間4,200万人にのぼる。政府は2030年までにこれを年間6,000万人にまで拡大する目標を掲げている一方で、空港地上業務を支える国内の労働人口は激減し続けている。顧客は増え続けるが、働き手は減り続けるという、この強烈な矛盾を解決するために、人間に代わってそのまま作業を代替できるヒューマノイドの導入が不可欠となっている。
羽田空港の現場において、GMO And Robotics商事はこれまで蓄積してきたノウハウを全方位で応用する。レンタル事業で培ったロボットの最適な稼働設計を直接応用し、ラボでの高度な検証力を活かして空港特有のコンテナ搬送における複雑な動作開発を進め、陸上部での技術実証で得た知見をもとに安全基準の厳しい空港での運動性能を担保する。
さらに、ハッキングに強い専用通信回線とセキュリティによって制限エリア内での堅牢な遠隔制御を実現し、構築中の都市保守体制によって不具合の発生を防ぎ日常的なメンテナンスを行う。ロボットを販売して終わる一時的なベンダーではなく、過酷な現場で顧客と常に並走し続ける生涯のパートナーとして機能するインフラ企業を目指している。
世界が注目するロボットの「運用市場」としての日本のポテンシャル
日本は、ヒューマノイドの運用市場というポジションにおいて、世界的に見ても極めて重要かつ強力な中心地になれるポテンシャルを秘めている。その理由は、以下の重要な条件がすべて揃いつつある唯一無二の環境であるためである。
・深刻な労働力不足という課題に裏打ちされた、他国を圧倒する日本企業側の切実な危機感
・ロボットに対する国民的かつ幅広い社会的受容性の高さ
・実用化と恒常的な運用に向けた、国内企業による長期間のコミットメント
・日本の現場オペレーション(TPSなどに裏打ちされた、日々細かく業務を効率化していく現場主義)から得られる、世界最高品質の改善・運用データ
世界中の優秀なヒューマノイドメーカーに対し、社会実装を試験し展開する上で世界で最も適したこの日本という素晴らしい環境を積極的に活用してほしいというメッセージを発信し、その挑戦のパートナーとして信頼性の高い「需要と供給の橋渡し役(プラットフォーム)」を目指す同グループの挑戦は、すでに本格的な一歩を踏み出している。
















