睡眠課題からスポーツ、医療まで。シンガポール国立大学発・レアアース技術で血流を改善する「M.I. Cloud Tech」
- Yasuda Kazuki
- 6月15日
- 読了時間: 7分

現代のビジネスパーソンにとって、質の高い睡眠は日々のパフォーマンスや健康に直結する極めて重要な要素です。世界では8人に1人がいびきに悩まされており、これを放置すれば睡眠時無呼吸症候群といった重篤な疾患に繋がるリスクを孕んでいます。しかし、現在市場に流通している対策製品の多くは、鼻や口に装着するマウスピースなどの侵襲的なものであり、その不快感から実に70%のユーザーが1ヶ月以内に使用を止めてしまうという大きな課題がありました。
この課題に対し、独自のレアアース(希土類)技術を用いた非侵襲デバイスによって根本的な解決策を提示しているのが、シンガポール国立大学(NUS)発のスタートアップ「M.I. Cloud Tech」です。同社のコアとなる革新的な技術は、南洋理工大学(NTU)や日立製作所などで15年以上の研究実績を持つ生物物理学の博士号取得者、リチャード・チュア博士によって発見されました。今回は、チュア博士と共に同社をスピンオフさせ、現在は共同創業者としてグローバル展開を牽引するザド・カーン氏に、自社の画期的な事業内容や今後の展望について伺いました。
いびきの根本原因に直接アプローチする「置くだけ」の非侵襲デバイス
私たちM.I. Cloud Techは、独自のレアアース素材を用いて特定の部位の血流を急速に改善する技術を有しています。現在ヘルスケア領域において私たちが最も注力しているのが、いびきと睡眠の質の改善です。いびきが発生する原因の80%は、喉の奥にある軟口蓋の筋肉が弛緩し、気道を塞いでしまうことにあります。呼吸の際に空気がこの落ち込んだ筋肉に触れて振動することで、あのいびきの音が発生するのです。既存の睡眠改善製品の多くは、依存性を生むサプリメントや、根本原因である筋肉の弛緩に作用しない温度調節・人間工学に基づく枕などに留まっています。

当社の製品は、この「軟口蓋の筋肉が落ち込む」という根本的な原因に直接アプローチするデバイスです。使い方は極めてシンプルで、就寝時に首の後ろ(枕の下)にデバイスを置くだけです。わずか3分で軟口蓋の血流が改善され、筋肉が緊張を取り戻すことで、夜間を通して気道がしっかりと確保されます。バッテリーの充電は一切不要であり、一度購入すれば3年間効果が持続します。また、WHOの国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)は24時間毎日使用しても安全な静磁場の基準を4,000ガウスと定めていますが、当社のデバイスはわずか1,000ガウスであり、枕越しに測定すると無視できるレベルの50ガウスとなるため、安全性も担保されています。

圧倒的な臨床データとユーザーからの支持
当社の技術は、15のグローバル特許と3つの学術論文によって裏付けられており、過去2年間ですでに3,000個以上の製品を販売してきました。通常、市場にある最高クラスのいびき対策製品であっても顧客満足度は最大で70%程度ですが、当社が800人のユーザーを対象に行った調査では、実に96%の方が結果に満足していると回答しています。私たちの科学的なエビデンスの一部は次の通りです。
欧州大手睡眠製品企業との共同調査 欧州のHilding Anders社が300人を対象に行ったテストでは、激しいいびきを70%削減し、睡眠の質を70%向上させる結果が得られました。
医療機関での睡眠時無呼吸症候群研究 シンガポールの病院で実施したポリソムノグラフィ(睡眠ポリグラフ)検査において、無呼吸症候群の指標を最大90%改善しました。
不眠症学生を対象とした二重盲検試験 不眠症と診断された50人の学生を対象とした2ヶ月間の試験では、プラセボ群と比較して睡眠の質が2倍以上向上しました。
シンガポール航空(SIA)睡眠ラボでの実証 機内でいびきをかく人にデバイスを利用すると、いびきが約50%減少することが確認され、同社のラボにも製品が展示されています。

実際のユーザーからも、人生が変わったという喜びの声が多数寄せられています。例えば、初期ユーザーのクリスさんは長年のいびき問題で夫婦関係に亀裂が入っていましたが、当社製品のおかげで再び同じ部屋で安眠できるようになりました。また、いびきのせいで娘の睡眠を妨げていた父親のトレバーさんの事例や、日中の集中力低下に悩んでいたシンガポールの金融専門家が、質の高い睡眠を取り戻したことで仕事のパフォーマンスを向上させた事例などがあります。

睡眠領域を超えた5つの事業展開ロードマップ
私たちの技術は「特定の部位の血流を急速に改善する」という極めて汎用性の高いメカニズムです。この特性を活かし、当社は現在、以下の5つの市場への事業展開をロードマップとして描いています。
一般消費者向けウェルネス(睡眠) 現在市場に展開しているいびき対策デバイスです。来年はインフルエンサーや著名人を起用し、Amazonを通じた米国市場や欧州市場への展開を加速させます。
医療用睡眠ソリューション 睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP(持続気道陽圧ユニット)の代替または併用デバイスとして、医療機関と連携した臨床研究を進めています。
高齢者ケア(夜間頻尿対策) 65歳以上の多くが悩む夜間頻尿に対し、シンガポールの高齢者ケア施設で実証実験を行いました。結果として、症状を20%から最大70%軽減できることが判明しています。
スポーツテクノロジー(疲労回復・パフォーマンス向上) 血流改善効果により、スポーツ分野にも応用可能です。オーストラリアのサイクリストを対象とした調査では、走行距離の伸長と回復力の向上が確認されました。また、香港ではスポーツ用品メーカーとパイロットプロジェクトを実施し、インソールにデバイスを組み込むことで疲労軽減効果が報告されています。さらに欧州のスポーツ企業との実験では、デバイスを付けた状態で氷水に足をつけても、足の温度は4度高く保たれ、凍傷予防の可能性も示唆されました。
糖尿病性足病変の管理 糖尿病患者の足の血流低下によって生じる潰瘍や壊疽(えそ)のリスクを軽減するため、足の血流を改善するデバイスとして臨床パートナーを探索しています。
将来的には、これらの医療・スポーツ分野への応用を本格化させるとともに、韓国からの受注に対応して医療機器承認を得るためのISO認定工場の確保や、製造能力拡大に向けた投資家の募集も進めていく方針です。

日本市場での本格展開とパートナーシップ構築
私たちはグローバルな事業拡大を進めており、特に日本市場への展開には大きなポテンシャルを感じています。現在、日本の仮眠室事業者や代理店などと契約を締結しており、第一弾の製品ロットも発送済みです。これらのパートナー企業を通じて、ホテルへの導入や、D2Cチャネルを通じた日本市場での流通戦略を現在構築しているところです。
さらに、単なる販売にとどまらず、医療・研究面での提携も積極的に進めています。すでに日本の企業から、CPAP(持続気道陽圧ユニット)の代替や併用を目的とした臨床研究の打診を受けており、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、日本の研究機関と共に研究を進めるための協議や投資の検討を開始しています。私たちは、睡眠時無呼吸症候群や後述する糖尿病性足病変などの分野で日本国内の臨床試験を共に実施し、そのデータをもとに商業化まで並走できるパートナー企業をさらに求めています。
■ 終わりに
M.I. Cloud Techが提供するソリューションは、対症療法が主であった既存の睡眠市場において、レアアース技術を用いて「血流改善」という根本的な原因にアプローチする点で極めて革新的です。同社のデバイスは、世界的なペインポイントである「いびき・睡眠負債」を非侵襲で解決し、すでに多くの人々のQOLを劇的に向上させています。しかし、同社のポテンシャルはそれだけに留まりません。スポーツのパフォーマンス向上から、高齢者の夜間頻尿ケア、さらには糖尿病性足病変の予防といった深刻な医療領域にまで、その適応範囲を大きく広げていくロードマップが力強く描かれています。シンガポール発のこのディープテック企業が、日本のパートナー企業とどのような化学反応を起こし、世界のヘルスケア・医療業界にどれほどのインパクトをもたらすのか、今後の躍進に大きな期待が寄せられます。
インタビュー企業概要
企業名: M.I. Cloud Tech
※インタビュー企業との連携や商談をご希望の方は当メディア運営企業のThird Ecosystem, incもしくは直接インタビュー企業までご連絡ください。
















