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【CEOインタビュー】10分の1の低価格と時速30ノット超の衝撃──防衛・民生を揺るがす「海洋自律ドローン」米Vatn Systemsの破壊的イノベーション

執筆者の写真: 安田 和貴/Yasuda Kazuki
安田 和貴/Yasuda Kazuki
2 時間前
読了時間: 11分
Vatn Systems (https://www.vatn.com/)
Vatn Systems (https://www.vatn.com/)

日本をはじめとする世界各国で、安全保障や資源開発、海底インフラ保全を担うディフェンステックへの注目が急速に高まっている。特に四方を海に囲まれた海洋国家である日本において、海洋防衛および海底探査の重要性は極めて高いと言える。しかし、従来の自律型無人潜水艇(AUV)は非常に高額であり、かつ製造や航行速度に大きな課題を抱えていた。


こうした従来の常識を根底から覆すスタートアップとして世界の防衛産業から脚光を浴びているのが、2023年に創業した米国のVatn Systems(ヴァトン・システムズ)だ。同社は従来の競合製品の約10分の1という圧倒的な低価格を実現しながら、時速30ノットを超える高速航行性能と高い量産性を備えた自律型水中ドローンを開発し、防衛および民生の両分野で注目を集めている。


今回、当メディアは同社CEOのNelson Mills氏へのインタビューを実施した。本インタビュー記事では、同社の事業戦略や低コスト化の裏にある技術思想、米ロッキード・マーティンや韓ハンファをはじめとするグローバル大手企業との提携戦略、さらに日本市場におけるパートナーシップの模索や今後の海洋自律化の未来像について、同氏が語った内容をもとに全貌を解き明かす。

Vant Systems CEO / Nelson Mills氏
Vant Systems CEO / Nelson Mills氏


海洋防衛と自律型無人潜水艇(AUV)の劇的な変化

従来の海洋作業や防衛ミッションにおいて、危険な海域での潜水作業や機雷掃海、海底の調査などは、人間のダイバーや遠隔操作型無人潜水艇(ROV)に依存せざるを得なかった。しかし、シビアな海洋環境におけるダイバーの安全確保や深刻な人手不足、さらには作業コストの増大が世界的な課題となっている。


インタビューの中で同社CEOが強調したのは、従来の自律型無人潜水艇(AUV)市場が抱えていた構造的課題である。AUVは従来の問題を解決する期待の技術として注目されてきたものの、市場は非常に限られたプレイヤーによって独占され、機体あたりのコストが極めて高額であった。また、従来のAUVの航行速度は一般的に3ノットから5ノット程度にとどまり、潮流や潮の満ち引きが激しい海域での自由な運用には大きな限界が存在していた。


このような状況下で登場したVatn Systemsは、圧倒的な低コスト性と優れた製造性(マニュファクチャラビリティ)を兼ね備えた自律型水中ドローンの提供を目指し、2023年に設立された。同社の自律型水中ドローンは、従来機では不可能だった時速30ノット以上の高速航行を可能にし、激しい潮流の中でも確実にミッションを遂行できる能力を備えている。ダイバーを危険な現場から遠ざけ、機雷掃海や海底スキャンなどの高リスクな運用を無人化・自律化することで、海洋防衛と海洋作業のあり方を根本から再定義しようとしている。


なぜ「10分の1の低価格」が可能なのか──水深100m未満の浅海域に狙いを定める引き算の発想

Vatn Systemsの最大の強みは、市場の競合他社と比較して約10分の1という驚異的な低価格を実現している点にある。防衛装備品や海洋機器において、これほどの価格破壊を可能にした背景について、インタビューでは同社固有の戦略とプロダクト設計思想が具体的に明かされた。


最大の要因は、全体の10%に過ぎないニッチで過剰なスペックを削ぎ落とし、現場で求められる90%のミッションに特化した点にある。従来のAUVメーカーは、水深300メートルから400メートルといった極限の深度での運用や、ミリメートル単位の精密な位置計測航行など、一部の特殊なユースケースを満たすために膨大な開発費と高額な部品を投入してきた。しかし、こうした10%の特殊な仕様こそが、製品全体のコストの90%を引き上げる主要因となっていたと語る。


Vatn Systemsはこの構造に着目し、実際の海洋ミッションの9割を占める水深100メートル未満の浅海域でのスキャンや汎用的な哨戒作業に焦点を絞った。たとえば、100回中90回を占める水深100メートル未満の通常の調査であれば低コストな汎用機体で対応し、極めて深い水深を調査する必要がある残りの10回のみ高額で特殊な専用機体を用いるという合理的運用モデルを提案している。要求スペックの最適化によって無駄なコストを徹底的に排除したことが、第1の低コスト化要因である。


垂直統合と製造性を意識した初期設計がもたらす構造的優位性

低コスト化を実現する第2の要因として挙げられたのが、創業初期からの製造性考慮設計(Design for Manufacturing:DFM)と原価低減設計の徹底だ。Vatn Systemsは開発の最初期段階から大量生産を見据えた設計を行い、組み立てや製造工程における効率化を極限まで追求した。


さらに第3の要因として強調されたのが、主要コンポーネントの垂直統合(インハウス化)である。従来の多くの水中ドローンメーカーは、外部から調達した既存の部品を組み合わせるパーツインテグレーターとしての性質が強くあった。この方式では、個々の部品メーカーが上乗せする利益率が層状に積み重なるマージンスタックアップが発生し、最終的な製品価格が高騰する要因となっていた。


Vatn Systemsは高額になりがちな重要部品やコアコンポーネントを自社内で内製化することで、中間マージンの重なりを排除した。これにより、中間コストを大幅に削減し、競合他社が真似できない高い原価競争力を確立することに成功したのだ。


「鶏と卵」のジレンマを打破したスタートアップならではの量産スピード

ドローン市場や防衛技術の分野には、常に鶏と卵のジレンマが存在する。顧客である政府機関や軍、民間企業は、実際に量産・納品できる能力があることを確認できるまで正式な契約を結びたがらない。一方で、従来のメーカーは確実に買い手が決まるまで量産設備や製品開発への投資をためらう傾向がある。


インタビューの中で同社CEOは、2023年の創業以来、ベンチャーキャピタルからの資金調達を活用し、顧客からの受注を待つ前に製品開発と量産体制の構築へ先んじて投資するリスクを取ったと述べている。この機動性とリスクテイクこそが、同社の急速な成長を可能にした最大の推進力だ。同社は自らが確実に製品を製造・供給できる能力を備えていることを早期に実証してみせたことで、顧客からの高い信頼を獲得し、需要を急速に喚起することに成功した。


同社は2025年に約9,000平方フィート(約830平米)の生産施設で量産を開始した後、即座に総面積9万平方フィート(約8,300平米)の新本社兼工場への移行を進めている。このうち7万5,000平方フィート(約7,000平米)を量産エリアとして充て、自社主力機であるS6 ClassおよびS12 Classの生産ラインを速やかに立ち上げた。この量産規模の拡大を支えたのが、初期からの組織づくりだ。同社は試作・事前生産の段階から製造部門ディレクターやサプライチェーン部門ディレクターを招聘し、専門の生産チームを組織した。製造の現場を知るメンバーがプロトタイプ段階から設計に対してフィードバックを行うことで、量産化への移行工程で発生しがちなトラブルを未然に防ぎ、高水準の生産システムを短期間で構築したのである。内製による迅速な量産体制を確立した点は同社の大きな強みと言える。


同社の主要モデルであるS6 & S12 Class水中ドローン



ロッキード、ハンファをはじめとするグローバルアライアンス

同社は自社での量産能力を高める一方で、世界各国の主要防衛プライム企業や強力なパートナー企業との戦略的アライアンスを精力的に構築している。スタートアップ単独ではカバーしきれないグローバル市場へのアクセスや、システム統合の強化を目的としたアプローチだ。


米国の大手防衛プライムであるロッキード・マーティンとの協業では、同社の指揮統制システムへのVatn Systems製ドローンの統合が進められている。ロッキードのシステムや無人機と、Vatn Systemsの複数ドローンが連携して作戦を遂行する実証プロジェクトが行われており、顧客に対してパッケージ化された高度な運用ソリューションを提供する枠組みが作られている。これにより両社双方の販売網と製品価値の相互拡大(相互ディストリビューションの強化)が実現されている。


韓国市場においては、同国を代表する総合防衛企業であるハンファ(Hanwha)とのパートナーシップを締結した。この連携は韓国防衛市場へのスムーズなアプローチを可能にするだけでなく、ハンファが開発を推進する他の技術とVatn SystemsのAUVを統合する取り組みが含まれている。さらに韓国は近頃、欧米や東南アジアをはじめとする世界各地への防衛装備品輸出を急速に伸ばしており、グローバルな販売網と強い展開力を持つハンファと組むことは、韓国国内のみにとどまらず、欧米や第三国市場へのデュアル展開を見据えた極めて戦略的な一手となっている。



大企業との協業における課題とパートナー選定の判断基準

スタートアップが防衛大手や大規模な大企業と協業を進める際には、常に特有の課題が存在する。インタビュー内でVatn Systemsが明かした課題は「意思決定およびビジネスの推進スピードの違い」である。同社のようなスタートアップは、担当者が経営陣を巻き込んでその場で即断即決を下し、素早く実行に移す文化を持っている。それに対し、歴史のある大手企業では数多くの承認階層が存在し、意思決定に膨大な時間を要することが少なくない。同社はこの速度差を認識したうえで、スピード感が合致する特定のプロジェクトを厳選して共同推進することで、滞りない協業関係を維持している。


また、Vatn Systemsが協業パートナーを選定する際に重視する基準として、価値観の不一致がないこと、適切なネットワークや顧客接続力を持っていること、そして双方が相乗効果を得られる相互利益のポテンシャル(Win-Winの関係)を挙げた。自社プロダクトの強みを正確に理解し、顧客に対してその価値を的確に伝達できるパートナーとの関係構築を最優先している。


防衛から民生(デュアルユース)への拡大戦略

海洋分野における自律型ドローンの需要は、軍事・防衛分野にとどまらず、民生分野においても大きな市場が存在する。同社は、海底通信ケーブルの敷設・点検、洋上風力発電設備のメンテナンス、石油・天然ガスパイプラインの管理、海洋土木工事、さらには海難捜索・救助や海洋環境保護に至るまで、極めて広範囲な用途に応用が可能と考えている。


Vatn Systemsはこうした技術の軍民両用(デュアルユース)展開について、明確なロードマップを描いていると語る。スタートアップの創業初期においては、開発リソースや営業リソースが限定されているため、防衛と民生の双方に同時に手を広げることはリスクが高い。そのため、まずは防衛分野にリソースを集中して製品を完成させ、市場でのポジショニングと信頼性を確立したうえで、順次民生分野へと拡大していくアプローチを採用している。


段階的な拡大戦略を取ることで、開発目標のブレを防ぎ、特定の顧客層に対して圧倒的なモメンタムを築くことができる。初期市場での成熟度が高まった段階で専門チームを組成し、民生市場への本格参入を進めるアプローチこそが、デュアルユースを成功させるための鍵であると同社は指摘している。


日本市場への高い期待

同社CEOは、四方を海に囲まれた島国である日本市場に対しても非常に強い関心と期待を持っている。広大な排他的経済水域(EEZ)を有する日本は、海洋防衛はもちろんのこと、海洋環境の保全や洋上風力発電をはじめとする海洋資源の活用において、自律型水中ドローンの活用価値が世界で最も高い国のひとつだと語る。


同社はすでに製品の一部にサーボモーターやバッテリーセルなど高品質な日本製の電子部品を採用しており、日本の優れた技術力を高く評価している。今後、日本市場での需要拡大に応じて、日本国内での生産体制の構築も可能性として挙げられている。国内企業とのライセンス生産、ジョイントベンチャー(合弁会社)、あるいは自社主導による日本国内工場の設立など、柔軟な形態での展開を検討しており、日本の製造パートナーや防衛関連企業との共同事業化に対して非常にオープンな姿勢を示している。日本独自の市場構造や規制、防衛・民生両分野の顧客ニーズを的確に把握し、スムーズかつ迅速な展開を図るうえで、国内市場に深いネットワークを持つ日本企業とのアライアンス構築は極めて重要な足がかりと位置付けられている。


持続可能な海洋自律化の未来

海洋自律化の技術トレンドについて同社は、これまでの人間によるダイバー作業や遠隔操作機(ROV)を中心とした運用から、完全自律型無人システム(AUV)への全面的な移行が進行していると分析する。これまで完全自律化の阻害要因となっていたのは機体の高コストであったが、Vatn Systemsのように圧倒的な低コスト化と高速性能を実現する技術が登場したことで、この潮目が完全に変わろうとしている。今後10年以上にわたり、海洋作業の主役は完全に自律型システムへとシフトしていくことが確実に予想される。


10分の1のコストと圧倒的なスピード、そして柔軟なアライアンス戦略を武器に海洋ドローン市場を切り拓くVatn Systemsの挑戦は、独自インタビューを通じて明かされた戦略的意図とともに、日本の海洋防衛や海洋産業の未来にとっても大きな示唆とインパクトを与えることになるだろう。


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