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レイターステージの深層:資本政策と事業成長の現実(IVS2026レポート)

  • 執筆者の写真: 安田 和貴/Yasuda Kazuki
    安田 和貴/Yasuda Kazuki
  • 7月7日
  • 読了時間: 6分

IVS2026下記セッションレポート

「どうするレイターステージ?急激な市場変化を経て、今レイターの最前線では何を考える」


IVS2026 どうするレイターステージ?急激な市場変化を経て、今レイターの最前線では何を考える
IVS2026 どうするレイターステージ?急激な市場変化を経て、今レイターの最前線では何を考える

近年、スタートアップを取り巻く市場環境は大きな転換点を迎えている。IPO基準の見直しやマクロ経済の不確実性の高まりを背景に、レイターステージにおける事業運営や資本政策の難易度はかつてないほどに上昇している。本記事では、IVS2026で語られた、レイターステージのスタートアップが直面する事業成長の壁と、それに伴う資本政策のリアルな実態について解説する。


レイターステージの再定義と投資家との認識のズレ

これまでスタートアップのレイターステージは、優先株を発行した回数で語られることが多かったが、現在その定義は実質的な意味を持たなくなっている。時価総額100億円から200億円という規模感であり、トップラインの成長だけでなく、営業利益ベースで10億円から20億円の創出が見えている、あるいは確実な改善シナリオが描けているかが、レイターと呼ばれるための厳しい条件となりつつある。


ここで生じるのが、投資家とスタートアップ側のステージに対する認識のズレである。Ubie社では、自らが実現したい世界や事業規模から逆算し、まだアーリーステージであると認識して赤字を掘ってでも先行投資を続けている。一方で初期投資家はレイターステージと見なしてリターンの創出を期待するため、こうした立場の違いによる摩擦を丁寧に調整し、期待値をすり合わせていくことが現在の経営陣に求められる大きな役割である。


既存事業のキャッシュカウ化とグローバル展開へのステップ

レイターステージにおいて資本市場からの評価を確立するためには、まず既存事業を確実なキャッシュカウへと育て上げる必要がある。投資家は、既存のメインビジネスの確実なスケールアップを期待しており、事業の軸がブレておらず、数年先の成長が確実視できる状態を高く評価する。


10X社では、手元資金が豊富にあったものの、組織を拡大して新規事業へ人員を回すのではなく、まずは既存事業を少ないコストで回せる体制にし、黒字化してキャッシュカウであることを証明する構造改革を優先させた。またUbie社では、日本国内の事業を確実なキャッシュカウに育て上げ、それを元手に市場規模の大きなアメリカへと投資を振り向ける段階的な成長モデルを描いている。さらにUbie社では、生成AIの活用を生産性向上や工数削減にとどめず、医療機関や患者向けの既存プロダクトのアップデートに直接組み込み、提供価値を抜本的に高めることでPL構造そのものを根本から変革している。


ダウンラウンドのリアルな交渉プロセスと資本構成の再構築

過去の市況でついた高いバリュエーションと現在の市場評価との乖離は、レイターステージの企業が直面する最大のハードシングスである。将来のIPOや資金調達を見据え、バリュエーションの歪みを放置せず、適正なフェアバリューにリセットする決断力が求められる。


10X社では、ダウンラウンドを受け入れ、自社の企業価値を客観的なフェアバリューにリセットする決断を下した。このプロセスにおいて10X社では、50社ほどの新規投資家を回って市場のリアルなバリュエーションを収集し、その一次情報を既存株主に開示して、数か月という長い時間をかけて粘り強く納得させていった。同時に10X社では、5年後や10年後のIPOまで伴走できる投資家を見極め、会社側から既存株主に対してプロアクティブに株式の売却を打診し、セカンダリー取引を通じて株主構成を抜本的に入れ替える踏み込んだ対応も行った。


バリュエーションギャップと株主構成が抱えるジレンマ

資金調達において、将来の買収やシナジー効果を織り込む事業会社は、純粋なリターンを追求する金融投資家よりも高いバリュエーションを提示しやすい。Ubie社では、バリュエーションのみでの交渉が厳しい環境下において、シナジー価値を見出してくれる事業会社との資本業務提携を資金調達の一つの武器として活用している。しかし事業会社が株主の大半を占める構成になると、将来のラウンドで追加調達を行う際、事業会社はマイノリティ出資のままリード投資家として大きく追加出資を行うハードルが高いため、別の金融投資家を新たに連れてこなければならないという新たな課題が生じる。またIPOを見据えた際、株主構成の流動性も考慮しなければならず、特定の属性に偏らず意図的に株主属性をばらけさせておくことが推奨される。


上場株投資家への営業活動と一次情報の獲得

市場からの評価を正確に把握するためには、未上場段階からクロスオーバー投資家や上場株のヘッジファンドなどに積極的にアプローチすることが不可欠である。10X社では、3年後や5年後の事業計画がどう評価されるか、クロスオーバー投資家や上場株投資家に直接話を聞きに行き、客観的な現在地を常にアップデートしている。さらに10X社では、単に教えを乞うのではなく、小売業界のリアルな最新動向など、自社が持つ生の情報を上場株投資家にギブアンドテイクで提供することで、彼らの関心を引き出す高度な営業活動を行っている。


社内への介入のグラデーションと熱狂の保護

外部環境の厳しさを社内にどう翻訳し、どこまで経営陣が介入するかも重要な課題である。経営層は、事業計画の進捗や投資家が求めるIRRの基準から逆算し、達成までの時間軸に応じて事業部への介入度合いを変える必要がある。

10X社では、サーバー代など確実な利益貢献が見込めるコスト管理についてはCFOが徹底的に細かく介入している。10X社は全社員にストックオプションを付与しており、日々のサーバー代のコスト削減が自身のストックオプションの価値向上にどれほど直結するかを定量的に説明することで、全社的な当事者意識を醸成している。


一方Ubie社では、社内のデータアクセスの制限を基本的に設けず、毎月の預金残高も社員が見られる状態にしている。しかしそれだけで社員の関心をコントロールすることは難しいため、Ubie社では局所的にコンバージョンサイクルやコスト意識を喚起しつつも、スタートアップ特有の熱狂を過度な数字の管理で削いでしまわないよう、介入の線引きに細心の注意を払っている。


IPOの真の意義と属人生の価値

未上場市場でも多様な資金調達が可能となった現在、IPOはもはや最終的なゴールではなく、企業価値を最大化するための資金調達手段のひとつに過ぎない。無理に上場を急ぎ、上場株投資家からの短期的なプレッシャーに晒されて袋小路に陥るリスクを避けるためにも、自社にとって最適なタイミングと手法を冷静に見極める必要がある。どのような市場環境にあっても、自社が社会に対してどのような価値を提供し、何を成し遂げたいのかという創業時の志を決して見失ってはならない。上場準備というプロセスに没頭するあまり、事業の本質的な目的からブレてしまうことが最も危険である。


また、AIの進化により様々な業務が効率化される時代であっても、最終的な資金調達や投資家との関係構築において最も重要なのは、人と人との繋がりという属人性である。上場株投資家であっても、選んだ銘柄に対しては深い思い入れや愛着を持って伴走してくれる。客観性を保ち、多様なステークホルダーと誠実に対話を続けながら、事業に対する情熱を持ち続けること。これこそが、激動のレイターステージを生き抜き、さらなる飛躍を遂げるための最大の鍵となる。

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