スイスのディープテックの波が東京に到来:SusHi Tech 2026で旋風を巻き起こした革新的スタートアップ10選
更新日:8月31日
セッション名: SwissTech at SusHi Tech Startup Pitch 2026
世界最高峰のイノベーション大国・スイスが日本に上陸
世界最大級のイノベーションイベント「SusHi Tech Tokyo 2026」において、スイスが圧倒的な存在感を示した。2025年の博覧会で**「最も革新的なパビリオン(The Most Innovative Pavilion)」賞を受賞したスイスは、その卓越した創造的モメンタムを示し続けている。スイスと日本の二国間の架け橋となる科学技術総領事館「Swissnex(スイスネクス) in Japan」の主導のもと、厳選されたスイスの最先端ディープテック・スタートアップ10社が登壇し、ピッチを行った。スイスは世界イノベーションランキングで15年連続で首位を維持している。Swissnex in Japan of CEO兼科学領事であるDr. Felix Moesner**は、大学が保有する優れた特許を商業価値の高いスタートアップへと転換する強力なエコシステムこそがスイスの強みであると強調した。
「わずか創業6年のスイスのスタートアップが、日本の製薬企業に12億ドル(約1,800億円)で買収され、ユニコーン企業となった好例もある」とDr. Moesnerは語る。世界中のスイス人起業家にとって日本は進出希望先の第3位にランクインしており、今回のSusHi Tech Tokyoは両国の市場開拓を加速させる極めて重要な契機となった。

1. AckTao:没入型ゲームでサイバーセキュリティ教育に革命を起こす
登壇者: Cécile Maye
革新技術: 没入型、適応型、双方向型のゲーム化されたサイバーセキュリティ教育プラットフォーム
ターゲット市場: 大企業、経営幹部(エグゼクティブ)、政府機関
これまでの実績: スイス国内の政府、学術機関、主要財団とのパイロット事業のみで既に100万スイスフラン(約1.6億円)の売上を達成
日本市場での目標: 日本市場に特化したシナリオを共同開発・ローカライズする戦略的パートナーの獲得
AckTaoは、退屈になりがちな企業のセキュリティ研修を、没入感の高いインタラクティブなトレーニングへと変貌させる。役員層や次世代の従業員を対象に、ユーザーの選択に応じてリアルタイムで変化するサイバー危機のシミュレーションを提供。今年末の正式リリースを控え、日本の事業者との協業によるローカライズを目指している。
2. AVAtronics:ハードウェア追加ゼロで音を10分の1にする極小エッジAIノイズキャンセリング
登壇者: Jeyran Hezaveh(共同創業者 兼 CEO)
革新技術: ソフトウェアのみで実現する音響ノイズ除去・クリッピング向けエッジAIおよびデジタル信号処理(DSP)
適用分野: コンシューマー用ヘッドホン、補聴器、軍用ヘッドセット、鉱山用防音保護具、移動体用のシート内蔵ヘッドレスト
これまでの実績: 大手半導体メーカーや移動体メーカー(日本の自動車・鉄道関連企業を含む)へのライセンス提供実績あり
AVAtronicsは、従来のノイズキャンセリングでは遮断が極めて困難であった「飛行機内での赤ちゃんの泣き声」などの突発的・不規則な騒音の打ち消しに成功した。同社の組込みソフトウェアを適用するだけで、追加のハードウェアなしで騒音を10分の1(10倍静か)に低減する。現在、日本の自動車・航空・鉄道メーカーと共同でヘッドホン不要の「座席内蔵型静音システム」を開発中であり、2026年末までに搭載製品が市場に投入される予定である。
3. BeEmotion.ai:機械に人間の「感情と行動」を読み取らせるビジュアルAI解析
登壇者: Colin Mason
革新技術: コンピュータービジョンを活用した人間の行動および感情のリアルタイム解析モデル
主要な導入事例: Panasonicの対話型ロボット「Nicobo」への搭載、飛行シミュレーター訓練システム「Aeromind」、車載ドライバー監視、非言語的な痛み測定(認知症患者向け)
人間のコミュニケーションの6割以上は、言葉ではなく視覚情報(表情や仕草)で行われる。BeEmotion.aiは、この「無言のサイン」を機械が自律的に理解するためのAIを開発している。代表作である「Aeromind」は、操縦シミュレーター内のパイロットの表情や姿勢からストレスレベルを可視化する。教官の主観に頼っていたシミュレーター訓練に、客観的なデータによる「ミラー効果(自己投影効果)」をもたらし、次世代の航空安全教育を科学的に支えている。
4. CYSEC / Joey:データを処理中のまま暗号化する「Trust Core FHE」半導体
登壇者: Nagib Aouini(CEO)
革新技術: 秘密計算(MPC:秘密分散法)および完全同準同型暗号(FHE)を物理半導体で高速化する「Trust Core FHE」
主要提携先: Amazon AWS、Google Cloud、ServiceNow
売上・財務推移: 前年度売上400万ドル。現在1,500万ドル('26/'27予測)に向けて急拡大中、将来的に1億ドル規模を見込む
現在の一般的なクラウドセキュリティでは、保存中や通信中のデータは暗号化されるが、「処理(計算)中」にはメモリ上で平文に戻るため、ハッカーの標的になる。CYSEC(Joeyブランドで展開)は、計算中のデータも常に暗号化した状態のまま処理を行う「完全同準同型暗号(FHE)」を開発した。独自の高速化半導体「Trust Core FHE」を介することで、CTスキャンなどの高解像度医療データやConfidential AI(プライバシー保護型AI)の処理を、暗号化した状態のまま96%〜97%の極めて高い精度で実現する。
5. ESG Explorer:日々の購買意思決定にCO2とコストの「トレードオフ」を可視化するデジタルツイン
登壇者: Dirk Hermans
革新技術: 企業の業務データと認証済みESG排出係数をマッチングさせる高精度AIアルゴリズム
優位性: 事後集計に留まる既存の報告ツールと異なり、購買時や配送時にリアルタイムで「二酸化炭素排出量」と「コスト」を算出する点
ターゲット市場: 製造業、小売・流通業
従来のサステナビリティ管理ツールは、決算期後にまとめて温室効果ガスの事後報告書を作成するためのものであった。ESG Explorerは企業のバリューチェーン全体の活動を写し出す「デジタルツイン」を構築する。購買や物流手配などの意思決定を下すその瞬間に、コスト、リードタイム、そしてCO2削減量の最適なバランス(トレードオフ)をAIが自動提案し、日々の業務を通じて持続可能なビジネスを実現する。
6. Jaipur Robotics:廃棄物処理工場の爆発や故障を防ぐディープラーニング画像解析
登壇者: Ermes Zamboni(CEO 兼 共同創業者)
革新技術: 重工業分野向けの高精度廃棄物識別用ディープラーニング画像解析ソフトウェアおよびロボット制御システム
解決する課題: 廃棄物発電所やセメント工場に混入するコンクリート塊、ガスボンベ、リチウム電池等の異物によるプラント停止・爆発被害の防止
資金調達状況: 現在シードラウンドで400万スイスフラン(約6.4億円)を調達中(既に枠を超える超過応募を記録)
大量の廃棄物を処理するプラントでは異物の混入が大きな問題となっており、実際にオランダの工場ではガスボンベの爆発事故により**6,500万ユーロ(約100億円)**の壊滅的な損害が発生した。EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)発のJaipur Roboticsは、選別ピットや搬入トラック上部にカメラを配置し、高度な画像認識AIによって危険な異物を瞬時に検知する。さらに、クレーンを自動制御して異物を除去することで、完全自動で壊滅的トラブルを未然に防ぐ。
7. Kido Dynamics:通信キャリア携帯データとMastercard購買データを統合した最高精度の人流予測
登壇者: Alberto Hernando(CEO)
革新技術: 完全に匿名化された携帯基地局データとクレジット購買履歴を掛け合わせた「実測人流解析(グラウンドトゥルース)」
実績: イビサ島、マヨルカ島、サンパウロなどの観光過密(オーバーツーリズム)対策、交通機関の運行最適化、商業施設の出店計画
資金調達状況: シリーズAで500万ドル(約7.5億円)を調達中
Kido Dynamicsは、単なる推定値ではなく「裏付けのある実測人流」を導き出す。各国の通信事業者と提携し、プライバシー保護を徹底した基地局データのビッグデータを解析。さらにMastercardの購買データを統合することで、「いつ、誰が、どこに動き、何にいくらお金を使ったか」までを一気通貫で可視化する。この卓越した解析力は、Uberや屋外広告最大手のJCDecauxなど世界最高峰の企業に採用されている。日本の観光・人流対策での協業も目指している。
8. NovoViz:極限環境での超高速撮影を実現する「SPAD(1光子検出型)」次世代イメージセンサー
登壇者: Andrada Muntean(CEO 兼 共同創業者)
革新技術: 単一光子アバランシェダイオード(SPAD)を用いたシリコンイメージング・センシング半導体
イノベーション: かつて研究所向けに6万〜7万ドル(約1,000万円)していた巨大電子ボードシステムを、3×3×3cmの極小カメラキューブに凝縮し、システムコストを20分の1に削減
実証実績: 2025年3月に宇宙への製品打ち上げに成功。極限の放射線、振動、真空環境下でも正常動作を証明
標準的なCMOSセンサーは、暗闇や超高速移動を伴う産業用ラインの検査など極限環境下での撮影には適さない。NovoVizのSPADイメージセンサーは、到達する「光の粒子(単一光子)」すら正確に捉え、ピコ秒からナノ秒単位の時間情報を付与できる。これまで複雑な回路で構成されていた周辺システムを半導体チップ(シリコン)上に一体化することで、劇的な小型化と耐衝撃性、そして低価格化を達成した。短波赤外線(SWIR)にも対応し、濃霧や煙、産業用の塵を透過した驚異的な可視化画像を実現する。
9. REOR20:水理計算をAIに学習させ、1分以内に「建物単位」で洪水予測
登壇者: David Schenkel(プロダクト責任者)
革新技術: 流体力学(CFD:数値流体力学)をディープラーニングで学習した高速洪水予測AIエンジン「Deep Water」
解像度: 広大な警報区域を建物、道路、私有地(プロパティ)単位まで高精細化。分刻みでどこに水が達するか予測する仕組み
導入実績: オーストラリア全土で運用中。先般の大型ハリケーン(台風)襲来の際にも高い効果を発揮
従来の洪水警報はエリアが広すぎて、市民や事業者は自分たちの建物がいつ浸水するのか予測することが困難であった。正確な「流体力学シミュレーション(CFD)」を行うするにはスーパーコンピューターでも膨大な時間とコストを要する。REOR20は、この重いCFDを丸ごとAIモデルに学習させた独自の予測エンジン「Deep Water」を開発した。地形データと気象予測を入力するだけで、大都市圏全体の洪水経路を安価なPCでわずか1分以内に演算する。各戸・各道路レベルで「いつ、どこが、どれだけ浸水するか」のリアルタイムシミュレーションを実現した。日本のように風水害の多い環境に極めて有用なソリューションである。
10. REM Analytics:重要な菌種のみを絞り込み特定する「Elements of Health」マイクロバイオーム解析
登壇者: Paulo Reffineti(CEO 兼 共同創業者)
革新技術: 全ての菌を網羅するのではなく、特定の体調に決定的な影響を与える「必須菌種」のみを特定して測る超標的型マイクロバイオーム検査
適用対象: 女性特有の健康ケア、メンタルウェルネス、世界初の乳幼児における早期自閉症検知
臨床実績: 体外受精(IVF)成功率の予測、および生後わずか3カ月での早期自閉症予測の実証に成功
多くの腸内細菌検査企業は数千もの菌を網羅的に解析しようとし、結果としてデータが煩雑になり実用性に欠ける傾向がある。REM Analyticsのアプローチは真逆であり、人間の体調を左右する極めて重要な「必須菌種」に完全にフォーカスして迅速に測定する。SusHi Tech 2026では、膣内および腸内フローラを迅速分析して個人の能力やメンタルに最適なプロバイオティクスと栄養を提示する統合システム「Elements of Health」を発表した。同技術は体外受精成功率の指標のほか、生後3カ月での極めて早期の自閉症リスクの予測に寄与する臨床データを獲得している。
スイスと日本の協業が切り拓く、ディープテックの新たな地平
SusHi Tech Tokyo 2026に集結したスイスの代表団は、豪雨による洪水、激化するサイバーセキュリティの脅威、製造業・ロボティクスの高度化、個別化医療など、現在の日本社会が直面する多くの最重要課題に対する回答を持ち合わせていた。Swissnex in Japanという強固なイニシアチブのもと、これらのディープテック・スタートアップは、技術ライセンス、投資、共同開発などのあらゆる手段を通じ、日本の優れたパートナー企業とのシナジーを最大限に発揮することを目指している。
















