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AI格差の解消へ:インテリジェント・エイジにおける教育、主権、そしてウェルビーイング(SusHi Tech Tokyo 2026)

Miki Sadinov
8月25日
読了時間: 7分

更新日:8月26日

イベント: AI x Education for Well-being in the Intelligent Age

登壇者:

  • 藤井 輝夫 (東京大学総長)

  • ボロル=エルデン・バトツェンゲル (AI Academy Asia 創設者兼CEO、元モンゴルデジタル開発通信省創設副大臣)


SusHi Tech Tokyo 2026」のImpact Stageにおいて、東京大学総長の藤井輝夫氏と、AI Academy Asia創設者兼CEOであり元モンゴルデジタル開発通信省創設副大臣のボロル=エルデン・バトツェンゲル氏による対談が行われた。テーマは**「インテリジェント・エイジにおけるウェルビーイングのためのAI×教育」**。デジタル時代の最重要課題に切り込む議論が展開された。


両氏は、前年のダボス会議期間中に「AI House Davos」でのセッション「AIの限界を超えて」で共演している。今回の対談は、前回の議論をさらに発展させ、技術的な進歩そのものよりも、「人間を中心に据えた能力開花」に焦点を当てた。藤井氏が提唱する「インテリジェント・エイジ(知能の時代)」とは、AIとの共生が不可欠な未来社会を指す。この時代において、テクノロジーの究極の目的は、個人の、そして社会全体の「ウェルビーイング(幸福)」の実現に再

定義されなければならない。



1. グローバルなパラドックス:「不平等の助長装置」としてのAI

シリコンバレーや北京の巨大IT企業が生成AIの開発競争を加速させる一方で、バットツェンゲル氏は深刻なデジタル・デバイド(格差)の現状を指摘した。積極的な介入がなければ、AIは進歩のツールではなく、むしろ「不平等を助長する装置」になりかねない。

  • 地球規模の格差: 世界には未だインターネットに接続できない人々が約22億人存在し、約7億5000万人が電気のない生活を送っている。

  • モンゴルの人口動態: モンゴルは人口の75%が37歳以下という極めて若い国である。広大な国土に7000万頭の家畜を抱える一方、若者世代は極めてITリテラシーが高く、数学的素養に優れている。

  • インフラ整備の軌跡: 日本のKDDIによる現地大手通信事業者「モビコム(MobiCom)」への投資や、遊牧地域へのスターリンク(Starlink)の導入により、人口350万人に対しスマートフォン普及数は700万台に達し、インターネット接続率は95%に及ぶ。物理的な接続環境はすでにボトルネックではない。

  • 教員研修を起点とする教育普及: AI Academy Asiaは現地の「ゴロムト銀行(Golomt Bank)」と提携し、モンゴル初となる1万人の教員向けAI研修を実施した。この訓練を受けた教員を通じて、現在約2万人の地方・遊牧地域の子供たちにAI教育を届けている。このモデルは現在、アゼルバイジャン、タジキスタン、インドへも展開中である。


2. 「AI主権(AI Sovereignty)」という不可避の課題

テクノロジーの基盤が世界的に中央集権化する中、国家の文化的アイデンティティの維持が地政学的な焦点となっている。両氏は、発展途上国や小規模国家がグローバル巨大IT企業に完全に依存することを防ぐため、二つの側面から「AI主権」の重要性を論じた。

  • システムとハードウェアの独占: 大規模言語モデル(LLM)と、それを稼働させるグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)などのハードウェアエコシステムは、極めて少数のグローバルIT企業およびベンダーに支配されている。

  • 言語と言葉による文化の浸食: インターネット上のデータの大部分は英語に偏っている。言語は文化と深く結びついているため、英語偏重のAIモデルのみに依存することは、地域固有の文化的ニュアンスや多様性を損なうリスクを孕む。

  • 固有モデルの開発: 藤井氏は、基盤となる英語LLMの上に、日本語やモンゴル語といった独自の文化や文脈を反映した「主権的AI(ソブリンAI)」を独自に構築していく技術開発の必要性を強調した。


3. 高等教育の再設計:東京大学の積極的なAI活用方針

教育現場における生成AIの規制論に対し、藤井氏は規制ではなく**「東京大学はAIの利用を積極的に推奨する」**という明確な方針を示した。

  • 講義での実践的な統合: AIの利用を禁止することは不可能であり、無意味である。東大のセミナーでは、複数のAIモデルを「議論の参加者」として活用し、出力結果を相互に比較・評価させ、AIの限界や誤りを批判的に分析する訓練を行っている。

  • 大規模なリテラシー教育: 国内トップクラスのAI研究者である松尾豊教授の講義には、年間1万〜2万人の学生が参加する。理系・文系を問わず、全学的な情報リテラシーを底上げし、それぞれの研究分野にAIを統合する環境を整えている。

  • グローバルな現場体験: 相互的な学習の重要性も実証されている。国際協力機構(JICA)との連携により、東大生をガーナの聴覚障害者学校へ派遣し、電子メールの書き方などの基礎的なデジタル・リテラシーを指導した。これは教える側にとっても深い学びを得る双方向的なプロセスである。


4. 教育パラダイムの転換:「知識」から「実践的スキル」へ

AIの普及は、これまでの教育のあり方に根本的な変革を迫っている。

  • 「百科事典的知識」の終焉: かつての高等教育は、膨大な知識を保有する人材の育成を目指していた。しかし、AIが瞬時に情報を検索・要約できる現代において、そのモデルは形骸化している。

  • 実践的スキルへのシフト: 現代の教育において重要なのは、アルゴリズム・エンジニアリングやAIの倫理的利用、実効的な社会変革をもたらす「実践力」の獲得である。物理学賞(ジェフリー・ヒントン氏)や化学賞(デミス・ハサビス氏)といったノーベル賞がAI先駆者に授与された事実は、既存の学問分野の境界が「融解」し、AIを共通言語として再統合されていることを示している。

  • 「UTokyo College of Design」の創設: グローバルな若手人材を惹きつけ、国際協働を推進するため、東京大学は70年ぶりとなる新学部(組織)「UTokyo College of Design(カレッジ・オブ・デザイン)」を立ち上げる。

    • 「デザイン」の広義化: ここでのデザインとは、単なる意匠や製品美ではなく、医療システム、AIの学習システム、国際的なAIガバナンス規則など、複雑な社会的「システム」の設計を意味する。

    • グローバル基準の採用: 全ての講義を英語で実施し、4学期制を導入して世界の学術カレンダーと同期させる。また、全1年生向けに寄宿舎(ドミトリー)を提供する。

    • 5年一貫修士プログラム: 5年で修士号まで取得できる一貫プログラムであり、その中に6ヶ月から1年間の学外活動(インターンシップ)を義務付けている。この期間を利用し、モンゴルのAI教育活動などに学生を派遣する協働も視野に入れている。


5. 技術的リスクの抑制:国際基準と感情的知性(EQ)の育成

巨大プラットフォームの台頭期に、テック企業、政府、NGOの連携不足からサイバー暴力やフェイクニュースといった社会問題が放置された歴史を振り返り、バットツェンゲル氏はディープフェイクなどのAI技術が同様の悲劇を繰り返すリスクを警告した。

  • 国際的なルール作り: 藤井氏は、日本が主導した「広島AIプロセス」に言及した。政府、産業界、学術界が連携し、AI開発における安全基準や国際的な行動規範を確立する取り組みが進められている。

  • 生涯学習アライアンス: 技術の進歩が急速であるため、大学の4年間で学んだ知識は卒業後すぐに陳腐化する。そのため、大学はグローバルな大学間アライアンスを組織し、卒業生が絶えず知識をアップデートし、倫理的な指針を学び直せる「生涯学習」のプラットフォームを提供する必要がある。

  • 感情的知性(EQ)と精神的回復力の必要性: リーダーシップ・ウェルビーイングを支援するRocklets創設者の岩渕ラナ氏からの「AI技術以外に必要なスキルは何か」という問いに対し、バットツェンゲル氏は**「感情的知性(EQ)」**の重要性を強く訴えた。AI Academy Asiaが実施した9〜12歳向けのパイロットプログラムでは、AIの技術教育と同時にEQトレーニングを組み合わせ、高技術社会やデジタルメディアが引き起こす精神的ストレスに対抗する「心のしなやかさ(レジリエンス)」を子供たちに教えている。


結論:インテリジェント・エイジにおける協働のブループリント

藤井輝夫総長とボロル=エルデン・バトツェンゲル氏の対談は、包摂的なグローバル教育枠組みの構築に向けた共通のビジョンで締めくくられた。本セッションにおける最終的な結論は、デジタル格差の解消にはインフラ整備以上のもの、すなわち、初等・中等教育(AI Academy Asiaによる草の根の「EQ×AI」プログラムなど)と、高等教育(東京大学のUTokyo College of Designなど)の有機的な連携(シナジー)が不可欠であるということだ。

詰め込み型の知識から実践的スキルへの移行、技術力と並行した「感情的知性(EQ)」の育成、そして「広島AIプロセス」に代表される国際的な安全基準の策定を通じて初めて、AIを格差拡大の道具ではなく、社会の平準化を促すツールへと昇華させることが可能となる。両氏は、先端技術と何世紀にもわたる地域文化・伝統が共生し、真のグローバル・ウェルビーイングを育む未来に向け、今後の緊密な協働を約束して対談を終えた。

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