シャヘド自爆ドローン探知の仕組みとAIの活用(ウクライナ・ロシア戦争)

ロシアから放たれるシャヘドを迎撃するには、まず「見つける」ことが重要であるが、ドローンを見つけるためのレーダーは万能ではない。特に、低く飛び、小さく、金属の少ないロシアによるシャヘド型ドローンは映りにくい。ウクライナではレーダーだけでなく、無線塔に据えたマイクが飛行音を聞き分ける仕組みや、市民が目撃したシャヘドをスマートフォン経由で通報する仕組みを活用してシャヘドを探索している。こちらの記事では、ウクライナにおけるドローンを探知するための仕組みを解説する。
レーダーが苦手な標的と、ドローン音を活用した探知の仕組み
まず自爆ドローンを見つけるために、なぜレーダー以外の仕組みが必要になったのか。米国の研究機関CSISのKateryna Bondarは2025年3月の報告で、ウクライナの防空が抱える探知の問題を整理している。シャヘド型のような自爆ドローンは、低空を飛び、機体が小さく、構造材に金属が少ない。そのためレーダーに返ってくる反射が弱く、探知が難しいのである。
一方で、この機体には速度が遅くエンジン音に特徴があり、地上にいる人間なら聞けば分かる。米アリゾナ州立大学が発行するSmall Wars Journalの2026年7月の論考は、この対比をはっきり書いており、レーダーにとって不利な条件が、人の耳にとっては有利な条件になるとのことである。そこで使われるようになったのが、マイクによる音をベースにした探知と、人間の目と耳による探知の仕組みである。どちらもレーダーより桁違いに安く、レーダーが苦手とする相手に効果的である。
無線塔のマイクによる音響探知
ウクライナの音響探知には、系統の違う二つの方法がある。
一つがZvook(ズヴーク)である。無線塔などに音響センサーを据え、電波を出さずに受動的に周囲の音を拾う。感度を上げるため、直径50センチほどの湾曲した音響ミラーを使う。CSISのBondarによれば、Zvookは約2万平方キロメートルを覆い、ドローンを4.8キロ、巡航ミサイルを6.9キロ手前で捉える。誤認率は1.6%。United24 Mediaによれば、設置場所はロシアとの国境に近い、飛来してくる側の入口にあたる地域である。1局あたりの費用はおよそ500ドルで、安いぶん多数を密に置いて探知精度を上げている。この音響探知の仕組みにおいてもAIが活用されている。機械学習で膨大な音のデータから標的ごとの特徴を学んでおり、AIが飛来物の音の判別を行っている。
もう一つがSky Fortress(スカイ・フォートレス)で、こちらは全土に広く展開している。United24 Mediaによれば、1台400〜1,000ドルの音響センサーが14,000台稼働しており、NATOの支援で第3世代機15,000台への拡張が進む。網全体の費用は、パトリオットのミサイル2発分に満たないという。音響で得たデータはレーダーのデータと融合され、タブレットと対空機関砲を持つ機動射撃班へ送られる。どこから、どの向きに、どれくらいの速さで飛んでいるかといった情報が軌道射撃班の手元のタブレットに現れ、射撃するのである。欧州駐留米空軍司令官のジェームズ・ヘッカー大将は、ウクライナの音響監視を「並外れている」と評している(Militarnyi)。
光ファイバーFPVを聞き分けるNW0
音で探すという発想は、2026年に入って別の相手にも向けられている。前線で問題になっているのが、光ファイバーで操縦するFPVドローンである。機体と操縦者をケーブルで結ぶため電波を出さず、電波を傍受して探す電子偵察では見つけられない。Zvookはこれに対し、新型の音響センサーNW0を搭載している。Militarnyiが2026年1月に伝えたところでは、AIが24時間、周囲の音の環境を解析し続ける。検知距離は150〜450メートル、360度をカバーする。巡航ミサイルを7キロ手前で捉える網とは用途が異なっており、数百メートル先の小型機を、音だけで見つけるための装置である。同社は、こうしたセンサーを並べれば、接触線や前線都市、兵站路を守る網を作れるとしている。
この分野への関心はウクライナの外にも広がっており、NATO加盟国の国防省が、ZvookとSky Fortressの運用経験を評価し、自国の防空向けに音響機材の購入を始めている。欧州の防衛大手Thalesは独自の音響探知網の開発に着手し、来年の発表を予定している。ポーランドのAdvanced Protection Systemsも同種のシステムの開発を再開した。ミサイル防衛擁護連盟の創設者リキ・エリソンは、Sky Fortressについて、ロシアが使う攻撃ドローンの大半を検知するまでになったと述べた。
市民がスマホで通報する仕組み
センサーや音響探知だけでなく、ウクライナは、市民そのものを探知の一部に組み込んでいる。その仕組みには、ePPOというアプリが使われている。Small Wars Journalによれば、開発したのはウクライナのIT企業Tekhnariで、2022年のことだった。使い方はシンプルであり、ドローンやミサイルを見た、あるいは音を聞いたら、スマホをその方向に向けてボタンを押す。位置は端末が自動で取得するので、入力の必要はない。送られた報告はリアルタイムで集約・処理され、目標の方向と速度が推定される。CSISのBondarによれば、通報が防空側に伝わるまでの時間は2〜7秒である。この仕組みが効くのは、標的の性質による。前述の通り、シャヘド型はレーダーには映りにくいが、遅く、音が特徴的で、地上からは見つけやすい。
2025年12月までに400万件を超える報告が寄せられている。2026年時点で、政府の電子サービスアプリDiia(ディーヤ)で本人確認を済ませた利用者は85万人を超える。Diiaを通すのは、誰が通報しているかを確かめるためである。虚偽や誤りの通報が防空の判断を狂わせないよう、身元の裏づけを制度に組み込んでいる。
大量の情報を処理するシステム
音響探知や市民のスマホ、加えて偵察ドローンや衛星など、多くの探知手段は、それぞれ別の形の情報を、別の経路で送ってくる。これらの情報がバラバラのままでは使えないことから、これを意味のある情報に変えて撃つ側に渡すのが、統合状況認識システムDelta(デルタ)である。
まずDeltaが、全体の土台にあたる。CSISのBondarは別の報告(2024年12月)で、Deltaが米軍の構想するCJADC2(統合全領域指揮統制。あらゆるセンサーと部隊を一つの指揮系統でつなぐ考え方)に近いものへ育ったと評している。ドローン、衛星、固定カメラ、各種センサー、偵察部隊から情報を集め、クラウドで処理し、地図画面「Delta Monitor」に表示する。兵士はブラウザとスマホから、同じ戦場図を見ることができる。
この土台の上で、AIが情報を仕分けている。担い手は大きく二つに分かれる。雑多な情報源を処理するAIと、映像を解析するAIである。情報源の処理を担うのがGriselda(グリゼルダ)という、バラバラの情報源から入ってくる大量のデータを、高速で処理・検証して、指揮システムが使える形に整えるシステムである。Militarnyiによれば、Brave1防衛テック・クラスターの参加者が、特殊作戦軍、軍、保安庁(SSU)、国防省と組んで開発した。扱う情報源は幅広く、衛星、ドローン、SNS、報道、さらにはハッキングで得た敵側のデータベースまで含む。これらは形式も信頼度もばらばらで、そのままでは使えない。Griseldaは4段階の検証で質を確かめ、自動解析モジュールとニューラルネットワークで処理する。CSISのBondarは、この仕組みが人手による作業を99%削減したと記す。Griseldaは、このDeltaのほか、兵士が使うArmor、Kropyva、Ukrop、GisArtaにも組み込まれている。
映像の解析を担うのが、Deltaに統合された二つのモジュールである。Vezha(ヴェジャ)は、もともとウクライナ国土防衛軍の第411独立大隊Yastrubyが開発し、2024年にDeltaへ統合された。数百機の無人機から届く映像を解析し、1日に4,000を超える偵察対象を識別・分類する。もう一つのモジュールであるAvengers(アベンジャーズ)は、国防省のイノベーションセンターが開発したもので、無人機と地上カメラの映像から、週におよそ12,000点の敵装備を自動で検出する。人間が全部の映像を見るのは不可能な量であり、機械が先に「これは敵の装備だ」と拾い出さなければ、集めた映像はただ溜まるだけで終わる。Bondarによれば、Deltaを通じて破壊された敵装備は、2024年8月までに150億ドル相当を超えた。
【まとめ】守るためのAIと人間による最終判断
ウクライナ・ロシア戦争でAIが最も広く使われているのは、撃つ場面ではなく、その手前の工程である。レーダーに映りにくいシャヘド型を、1台数百ドルのマイクが音で捉え、AIが音の判別を担う。また、市民からの通報含め、偵察ドローンなど様々な方法で得られた情報を、AIが高速で処理・検証している。また、映像データも人間には見きれない量をAIが分析する。これらに共通するのは、AIはあくまで音を聞き分け、映像を仕分け、通報を束ねるところまでを行っており、何を撃つかは人間が決めている点である。
出典
- Kateryna Bondar, "Ukraine's Future Vision and Current Capabilities for Waging AI-Enabled Autonomous Warfare," CSIS, 2025年3月6日(本記事のアンカー。Zvookの諸元、ePPOの伝達時間、Griseldaの人力99%削減)
- Kateryna Bondar, "Does Ukraine Already Have Functional CJADC2 Technology?" CSIS, 2024年12月11日(Delta、Vezhaの1日4,000超、Avengersの週約12,000点、150億ドル相当)
- "Sky Fortress—Ukraine's Acoustic Detection System That Tracks Drones Cheap and Fast," United24 Media(Sky Fortressの14,000台・1台400〜1,000ドル・目標の20%、Zvookは無線塔設置で国土の5%、1局約500ドル、精度低下3%、84機中80機を迎撃、訓練6時間、ヘッカー大将)
- "Ukraine Develops Acoustic Detector for FPV Drones," Militarnyi, 2026年1月(ZVOOK NW0。光ファイバーFPVの探知、検知距離150〜450m、360度)
- "NATO Shows Interest in Ukrainian Acoustic Detection Networks for Air Defense," Militarnyi(NATO各国の調達、Thales、Advanced Protection Systems、11か国への実演、リキ・エリソンの評価)
- "Smartphone App for Drone Detection by Citizens," Small Wars Journal(Arizona State University), 2026年7月13日(ePPOの開発元Tekhnari・2022年、位置の自動取得、400万件超、Diia本人確認85万人超、シャヘドがレーダーに映りにくく地上からは分かる理由)
- "Ukraine develops intelligence system based on artificial intelligence," Militarnyi, 2023年10月20日(Griseldaの開発体制、情報源、4段階の検証、統合先アプリ)
- "Ukraine's DELTA situational awareness system coordinated more than 50 drones at NATO exercises," Militarnyi, 2024年10月21日


















