ドローン攻撃にどう対処するか。3層構造による対ドローン防御と進化する電子戦対策(ウクライナ・ロシア戦争)
- 安田 和貴/Yasuda Kazuki

- 7月15日
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更新日:7月22日
2025年、ウクライナとロシアは互いに数百万機のドローンを飛ばし合った。ならば次の問いは、その空をどうやって守るかである。防御の中心は長らく電子戦、つまり電波妨害だった。安く、一度に多くのドローンを無力化できる手段である。ところが、この主力に穴が空きはじめた。光ファイバーと自律化が、妨害の効かないドローンを生んだからだ。守る側はいま、安い防御と高い防御のあいだで選択を迫られている。

探知・電子戦・追撃の三層構造による対ドローン防御
どれほどドローンが増えても、守り方の骨格は単純である。見つけて、妨害して、撃つ。CSIS(米戦略国際問題研究所)のKateryna BondarとSamuel Bendettは、ロシアの対ドローン防御を三つの段階として描く。まず信号探知(SIGINT/シギント/Signals Intelligence:電波を傍受して発信源を探る手法)でドローンの種類と位置を割り出し、次に電子戦(EW/Electronic warfare:電波を妨害して通信や測位を断つ戦い方)で無力化する。それでも抜けてきたものを、機関砲やネット、物理的な障害物で撃ち落とす。
ウクライナ側も発想は同じで、防空を「階層」でとらえる。New Geopolitics Research Networkのミハイロ・サムスは2025年11月、外周・中間・最終の防衛線を重ね、外周では航空機・迎撃ドローン・電子戦がシャヘドを近づく前に叩くと説明する。どの層も単独では完全ではない。2025年9月の攻撃では、810機のドローンがロシアから飛散し、約60機が防空を抜けてウクライナ領内に着弾した(ウクライナ空軍発表)。一夜に数百機が飛べば、毎回いくらかは必ず抜ける。
層 | 主な手段 | 強み | 弱み |
① 探知 | SIGINT・レーダー・音響センサー | 早期に種類と位置を把握 | 大量・低空・小型には取りこぼし |
② 電子戦(EW) | 電波妨害・GNSS(衛星測位)妨害・携行型妨害機 | 安い・面で効く・弾を消費しない | 光ファイバー機・自律機に無力、味方も妨害する |
③ 物理的迎撃 | 機関砲(ゲパルト)・ネット・迎撃ドローン・地対空ミサイル(Patriot等) | 確実に撃ち落とせる | 高コスト、飽和攻撃に弱い |
出典:CSIS・RUSI・New Geopolitics Research Networkをもとに編集部作成
守りの主力だった電子戦と経済性
三層のうち、長らく守りの主力を担ってきたのは真ん中の電子戦である。理由は経済性にある。電波妨害は一発ごとに弾を消費しない。一定の範囲に面で効く。相手を撃ち落とすのではなく、操縦や測位を断って無力化する。安く、大量に対処できる。
その効き目は小さくない。RUSI(英王立防衛安全保障研究所)のJack WatlingとNick Reynoldsは、2023年5月の報告書『Meatgrinder』で、ロシアの電子戦によりウクライナ軍から飛来する月におよそ1万機のドローンを無力化していたと記録した。ただしWatling自身、これは正確な数ではなく月ごとに変動すると断っている。数字の当否より確かなのは、電子戦の効果が大きいという事実である。ロシアはこの手段を、兵士の装備レベルまで下ろした。CSISによれば、塹壕の兵士がバックパック型の妨害機を背負い、頭部のアンテナと腕のディスプレイで、飛来するFPVをその場で妨害する。中央の大型装置ではなく、個々の歩兵が持つ装備へと分散したのである。
電子戦を無効化する光ファイバーと無線操縦や衛星測位に依存しない自律化
ところが2024年から2025年にかけて、この主力に穴が空きはじめた。
第一の穴は、光ファイバードローンである。機体と操縦者を細いケーブルで結ぶこの機体は、そもそも電波を出さない。妨害すべき信号が存在しないため、電子戦は効かない。ただし、光ファイバー自体が500~1,000ドルと、ドローン本体よりも高額であること、また爆発物の搭載容量が減ってしまうといった課題も残存する。
第二の穴は、無線操縦や衛星測位(GNSS)に依存しない自律化だ。例えばウクライナにドローンを提供しているエストニアのスタートアップKrattWorks社は、衛星測位(GNSS)を全て妨害されても、下向き光学カメラのリアルタイム映像を保存済みの衛星画像と照合し、自機の位置を特定することで自律で飛び続ける技術を自社ドローンのGhost Dragonに搭載し始めていると報じた(IEEE Spectrum, Tereza Pultarova, 2025年6月)。マシンビジョン機能を搭載したARMプロセッサを搭載したコンピューターにより実現されている。また、米国のスタートアップのAUTERION社の自律システムを搭載したドローンもウクライナに実装されている。Terminal Guidance(終末誘導)と呼ぶ技術であり、操縦者がノートパソコンなどの地上端末で目標を視覚的に指定すると、ドローン自身が無線操縦や衛星測位無しで標的を捕捉・追尾することができる。なお、AUTERION社は、2017年に食料品配達などの民生用途向けドローンの開発を目的に創業されたが、2024年初頭に軍事目的のドローン事業を開始している。
対空ミサイルの高いコストと安価な迎撃ドローンの登場
電子戦の効力が落ちる分、残るのは「物理的迎撃」層への依存である。だが、ここにはコストの問題が存在する。
物理的迎撃の層は幅が広い。New Geopolitics Research Networkのミハイロ・サムスによれば、機関砲(ゲパルト等)やMANPADS(携行式対空ミサイル)といった安価なものから、NASAMS、IRIS-T、Patriotといった高価な地対空ミサイルまでが含まれる。問題は、飛来するのが一機2万〜7万ドルのShahedであり、前線に群れるのが数百ドルのFPVだという点だ。これらを一発が桁違いに高いミサイルで迎撃していては、コストが見合わない。イスラエルの防空システム、アイアンドームが抱えた「迎撃する側のほうが高くつく」非対称が、そのまま現れる。
これに対する対応策の一つが、迎撃ドローンである。ワイルド・ホーネッツのStingは一機約2,500ドル。ウクライナ軍指揮部は、迎撃ドローンがシャヘドに対して70%を超える有効性を示しているとする(New Geopolitics Research Network)。安い脅威には、安い迎撃で応じる。コストの釣り合いを取り戻す試みである。機関砲や、トラックに機関銃を積んで対空射撃する機動火力班とならんで、この安価な迎撃機が「物理的迎撃」層の一角に増えつつあり、2026年にはクライナの迎撃率は月によって9割前後に達したと報じられた(Euromaidan Press、2026年4月)。
【まとめ】複数の層で9割のドローン攻撃を食い止める
2025年の対ドローン戦が示したのは、「守り」もまた一つの兵器では完結しないということである。探索・妨害・迎撃というどの層にも弱点がある。安く大量に効いた電波妨害は、光ファイバーと自律化に穴を空けられた。確実に撃ち落とせる運動的迎撃は、高いコストという代償を伴う。攻める側のドローンが安く、多様になったぶん、守る側も、安く多様な層を束ねるしかない。単一の万能兵器ではなく、複数の層を重ねて全体で9割を止める。それが、2025年に見えた守りのかたちである。
出典
Kateryna Bondar, Samuel Bendett, "The Russia-Ukraine Drone War: Innovation on the Frontlines and Beyond," CSIS, 2025年5月28日 https://www.csis.org/analysis/russia-ukraine-drone-war-innovation-frontlines-and-beyond
"Complexity and Layering: How Ukraine's Air Defence Must Operate," New Geopolitics Research Network, 2025年11月15日 https://www.newgeopolitics.org/2025/11/15/complexity-and-layering-how-ukraines-air-defence-must-operate/
Jack Watling, Nick Reynolds, "Meatgrinder: Russian Tactics in the Second Year of Its Invasion of Ukraine," RUSI, 2023年5月19日(ロシアの電子戦がウクライナから月約1万機のドローンを奪うと記録。Watlingは正確な数ではないと留保) https://www.rusi.org/explore-our-research/publications/special-resources/meatgrinder-russian-tactics-second-year-its-invasion-ukraine
Tereza Pultarova, "Ukraine's Autonomous Killer Drones Defeat Electronic Warfare," IEEE Spectrum, 2025年6月2日 https://spectrum.ieee.org/ukraine-killer-drones
"As Russia breaks air attack record, Ukraine's interception rate climbs to 90%," Euromaidan Press, 2026年4月1日 https://euromaidanpress.com/2026/04/01/as-russia-breaks-air-attack-record-ukraines-interception-rate-climbs-to-90/
















