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ドローンが変えた消耗戦:砲兵を超えた損害と、逆転した兵器のコスト(ウクライナ・ロシア戦争)

  • 執筆者の写真: 安田 和貴/Yasuda Kazuki
    安田 和貴/Yasuda Kazuki
  • 7月14日
  • 読了時間: 6分

更新日:7月23日

近代の戦争で、最も多くの兵士を死傷させてきたのは砲兵だった。2025年、ウクライナの戦場で、その座がドローンに移った。しかも主役は、一機数百ドルの小型ドローンである。安く、大量に飛ばせるこの機体が、数千倍の値段の戦車や、後方のインフラまで破壊するようになった。なぜ、これほど安いものが戦場の中心になったのか。2025年にドローンが変えたものを、損害・コスト・生産という三つの面から見ていく。



戦場におけるドローンの台頭

二度の世界大戦をはじめとする近代の通常戦では、戦場で最も多くの兵士を死傷させてきたのは砲兵だとされてきた。2025年、ウクライナでこの序列が入れ替わった。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のJack WatlingとNick Reynoldsは、2025年2月の現地調査にもとづき、損傷または撃破されたロシア軍装備の60〜70%がドローンによるものと推計した。RUSIはこれを、ウクライナ軍が持つ他のすべての兵器を合わせた約2倍の破壊効果にあたると表現している。ポーランドの政府系シンクタンク、東方研究センター(OSW)は2025年10月、前線での敵軍事目標の破壊の約85%、ロシア側の戦死・負傷の70〜80%がドローンによるとまとめた。OSWはこの数値を、フランス軍将官の2025年10月の発言と、ニューヨーク・タイムズの2025年3月の報道に帰している。

指標

数値

ソース

ロシア軍装備の損傷・撃破に占めるドローンの割合

60〜70%

RUSI(Watling・Reynolds、2025年2月)

前線での敵軍事目標の破壊に占めるドローンの割合

約85%

OSW(2025年10月)

ロシアの人員損失(戦死・負傷)に占めるドローン起因

70〜80%

OSW(2025年10月。仏軍将官・NYT報道を典拠)

ドローンの攻撃圏の奥行き

前線から10〜15km

OSW / CSIS

各機関の発表をもとに編集部作成


ドローンの脅威は、前線に張りつく部隊だけの問題ではない。OSWによれば、ウクライナが進める「ドローン・ライン」構想は、前線から10〜15kmの帯を、敵の活動を一掃するキルゾーンにすることを目指している。達成された状態ではなく、目標として掲げられた奥行きである。戦車や砲兵は、この帯を避けてより後方へ退がるようになった。CSIS(米戦略国際問題研究所)のKateryna BondarとSamuel Bendettも、前線から0〜15kmの帯を無人機が支配する戦闘空間として論じている。この攻撃圏を生き延びるため、部隊の移動手段にも変化が生じた。RUSIは、目立つ装甲車両に代えて、発見されにくいオートバイや全地形車(ATV)を用いる移動が広がったと記録している。大きくまとまって動くほど狙われるため、小さく速く分散する方向へ戦術が変わったのである。


ただし、これらの数値は、ドローンが万能になったことを意味しない。同じRUSIの調査は、FPV(一人称視点で操縦する小型攻撃ドローン)の60〜80%が、前線の区域や操縦者の練度によって目標に到達できずに失敗しているとも記録している。RUSIは、ドローンは単独では不十分で、砲兵や歩兵と組み合わせて初めて効果を発揮するとし、最も成果を上げる作戦はドローン・砲兵・歩兵を連携させたものだと指摘する。ドローンが損害統計の大半を占めるのは、一機ごとの精度が高いからではなく、投入できる数が多いからである。砲兵は不要になったのではなく、ドローンと組み合わせる役割へと変わった。


数百ドルのドローンと、逆転した攻防のコスト

ドローンが「数の兵器」であることは、価格に表れる。

CSISのBondarとBendettによれば、ウクライナのFPVドローンの単価は約200〜1,000ドル、航続距離は5〜15kmである。この機体が、数千倍の価格の戦車や装甲車を破壊する。攻撃する側のほうが安く、防御する側のほうが高いという逆転が生じている。一機を失っても、破壊できるのが百万ドル級の装備であれば、交換の比率は攻撃側に大きく傾く。

後方への攻撃でも構図は同じだ。ロシアが多用するShahed(ロシア国内生産型はGeranと呼ばれる)自爆型ドローンは、単価2万〜7万ドルとされる(CSIS)。これを迎撃するために各国が用意してきた地対空ミサイルは、一発が桁違いに高い。撃たれる側より迎撃する側のほうが高くつくという逆転は、前線の小型FPVから後方を狙う長距離ドローンまで、規模を変えて繰り返し現れている。

安い兵器で高い兵器を破壊できるなら、勝敗を分けるのは技術の優劣ではなく、どちらがより多く、より安く作り、より長く撃ち続けられるかになる。双方が単価を下げ、生産量を増やす競争に入る。2025年の戦争は、この生産と消耗の競争に収斂した。


年数百万機をめぐる、生産量の競争

戦争の規模そのものが変わった。CSISによれば、ロシアは開戦前、約2,000機のUAVを保有していたにすぎない。それが2024年には、ウクライナが約150万機、ロシアが最大400万機を使用する規模に達した。数百万機の無人機が日常的に飛び交う戦場である。

この規模を、ウクライナは短期間の増産で実現した。ただし、正確な生産数はソースによって食い違う。ここでは一つに寄せず、誰が何と述べているかを並べる。

項目

数値

ソース

ウクライナの2024年ドローン生産

約200万機 / 約220万機

CSIS(約200万) / OSW(約220万)

ウクライナの2025年生産(能力/目標)

400万機(能力)/ 450万機 / 500万機

ゼレンスキー大統領(年産能力400万) / OSW(450万超) / CSIS(500万)

ロシアのShahed/Geran生産

月約2,700機(年約3.2万機)

ウクライナ国防省情報総局(HUR、2025年9月)

ロシアの2025年Shahed生産計画

4万機+囮2.4万機

HUR

一夜あたりの長距離ドローン発射数(最大)

810機(囮含む・うちShahed約400機)

ウクライナ空軍 / ゼレンスキー大統領(2025年9月6〜7日)

各機関・当局の発表をもとに編集部作成


数値は割れているが、方向は一致している。ウクライナは2024年に年産200万機規模へ達し、2025年には400万〜500万機規模を目指した。数字が食い違う理由は二つある。一つは、生産量が正確に観測しにくいこと。もう一つは、「生産能力」と「生産目標」と「実際の生産量」が区別されずに語られることだ。ゼレンスキー大統領が挙げた400万機は年産の能力であって、その年の実績とは異なる。とはいえ、輸入に依存していた戦力が、国内の多数の製造網へ置き換わっていった点は、どの数字にも共通している。


ロシアも生産を拡大している。ウクライナ国防省情報総局(HUR)は2025年9月、ロシアのShahed生産が月約2,700機に達したと発表した。年に直せば3万機を超える。HURは、ロシアが2025年に4万機のShahedと2万4,000機の囮機を作る計画だとも伝えている。囮機は、安価な機体で防空網に的を増やし、迎撃側の弾と注意を消耗させるためのものだ。IISS(英国際戦略研究所)も2025年4月、ロシアがShahedの増産に注力していると分析した。2025年9月6日から7日にかけての一夜には、810機の長距離ドローン(囮を含む)が一度に発射された。ゼレンスキー大統領によれば、このうちShahedは約400機で、ウクライナ空軍によれば約60機が防空を突破して着弾した。数百機を同時に飛ばして防空網を飽和させ、その一部を必ず通す。これが、生産量の競争が行き着いた戦い方である。


【まとめ】ドローンによる勝敗条件の変化

2025年に起きたのは、新型兵器の登場というより、消耗の構造そのものの変化だった。損害の大半を生む兵器が砲弾からドローンに移り、勝負の焦点は「どちらがより多く、より安く作れるか」に寄った。ただし、砲兵が消えたわけではない。ドローンは砲兵や歩兵と組み合わせて使われており、単独では6〜8割が目標に届かない。数で押すこの兵器は、他の兵器と連携して戦果を上げている。


一機数百ドルから数万ドルのドローンが、戦車や航空戦力、後方のインフラといった、かつては高価な兵器が担っていた標的に届くようになった。その結果、戦争の勝敗は、前線の練度や個々の兵器の性能だけでなく、毎月どれだけの機体を作り続けられるかにも左右されるようになった。安く大量に作る能力が、そのまま戦力になる時代である。


出典

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