top of page

ウクライナ戦のドローン図鑑:FPV・光ファイバー・海上・迎撃

  • 執筆者の写真: 安田 和貴/Yasuda Kazuki
    安田 和貴/Yasuda Kazuki
  • 7月14日
  • 読了時間: 7分

更新日:7月23日

ロシアの全面侵攻が始まった2022年、戦場に一機数百ドルの小型FPVドローンが登場した。当初は少数の実験的な機体だったが、2023〜24年に大量投入され、2025年までに多様な型へと分かれた。無線妨害を受けない光ファイバー機、FPVを搭載して前線まで運ぶ母機、1,800キロ先の製油所を攻撃する長距離機、黒海で戦闘機を撃墜する海上艇。なぜ一つの機体が、これほど多くの型に分かれたのか。戦場のどんな要求が、どの型を生んだのか。用途別に整理する。



標準FPVと2つの弱点

FPV(First Person View:操縦者がゴーグルで機体の視点を見ながら飛ばす小型攻撃ドローン)は、市販の部品で組める安価な四回転翼機から始まった。CSIS(米戦略国際問題研究所)のKateryna BondarとSamuel Bendettによれば、2022年にプロペラ径18センチほどだった機体は、2024〜25年には33センチほどへと大型化し、爆弾投下型・偵察型・中継型へと用途も分かれた。単価は200〜1,000ドルである。

だが、この標準的なFPVには二つの弱点があった。第一に、無線で操縦するため、電子戦(Electronic Warfare:ジャミングなど、電波を妨害して通信を断つ戦い方)を受けると墜ちる。第二に、射程が5〜15キロと短い。2025年に登場した各型は、いずれもこの弱点のどちらか、あるいは用途の拡張に応えて生まれている。主な型を整理する。


ドローンの型

解いた課題

代表機・主な数値

ソース

標準FPV

安く大量に投入する

プロペラ径 約18→33cm、単価200〜1,000ドル、航続5〜15km

光ファイバーFPV

ジャミング(電子戦)

「Knyaz Vandal Novgorodsky」、有線・射程40〜50km、2024年8月クルスク初投入

重爆撃ドローン(Baba Yaga)

重い弾を夜間に投下

SkyFall製Vampire等、15キロ積載可能、夜間運用(熱線+光学カメラ)

マザーシップ(母機)

FPVの短射程

固定翼にFPVを最大6機搭載し、前線上空で放出

長距離攻撃ドローン(An-196 Liutyi)

戦略縦深への打撃

弾頭50〜75kg、射程約1,000〜2,000km、最長約1,800km

ジェット/ミサイル型ドローン

速度の限界を破る

ターボジェット搭載、Shahed/Geranのジェット化

海上USV(Magura / Sea Baby)

黒海の制海・制空

Magura V5がR-73でMi-8撃墜(2024年末)、V7がAIM-9でSu-30×2撃墜(2025年5月)

迎撃ドローン(Sting)

シャヘドの飽和攻撃

約2,500ドル、時速280km超、交戦距離25km、1,000機以上撃墜(2025年10月)

出典:各社発表・報道をもとに編集部作成


ジャミングによる無線妨害を避ける光ファイバー機

最初の分岐は、ジャミングへの答えだった。機体と操縦者を細い光ファイバーのケーブルで物理的につなぐ。無線を出さないため、電子戦では妨害できない。森林や塹壕、市街地のように電波が通りにくい場所でも飛ぶ。

これを最初に戦場規模で使ったのはロシアだった。2024年8月、ウクライナ軍がロシア領クルスクへ越境攻撃を仕掛けた際、ロシアの義勇団体ウシュクイニク(Ushkuinik、指導者Aleksey Chadaev)が「Knyaz Vandal Novgorodsky」と名づけた光ファイバーFPVを投入。英軍事ジャーナリストDavid HamblingがForbesで2024年8月に報じている。射程も当初の数キロから伸び、CSISは2025年時点の光ファイバー機の航続を40〜50キロとしている。

ワシントン・ポストは2025年5月、ロシアの光ファイバードローンがクルスクの戦いに寄与し、ウクライナは追随に回っていると報じた。最も新しい型が、有線誘導という古い技術に立ち返ることで生まれた点は、この分野の進化のしかたをよく表している。一方で、課題はコスト面であり、光ファイバーケーブルとリールの平均コストは2,000ユーロといわれている。


短射程を補う、母機と長距離攻撃ドローン

短い射程への答えは、二方向に伸びた。

一つはマザーシップ(母機)。CSISによれば、固定翼の機体が最大6機のFPVを搭載してロシア陣地の上空まで飛び、そこで子機を放つ。短射程のFPVを、遠くの戦場まで運ぶ方式である。同じく重量物を運ぶ型として、農業用の多回転翼機を転用した重爆撃ドローンがある。「Baba Yaga(バーバ・ヤガー)」と呼ばれるこの機体は、Forbesのヴィクラム・ミッタル(2025年12月)によれば、熱線カメラと光学カメラを備えて夜間に運用され、目標に弾を投下する。


もう一つは、長距離を単独で飛ぶ攻撃ドローンである。ウクライナのAn-196「Liutyi(リュートイ)」は、国営ウクロボロンプロムが2022年に、ロシアのShahedへの対抗として開発した片道攻撃型(帰還せず目標に突入する自爆型)で、弾頭50〜75キロ、射程はおよそ1,000〜2,000キロに及ぶ(Defense News、2025年10月)。これがロシア深部の製油所を攻撃する。米カーネギー国際平和基金のSergey Vakulenko(2025年10月)によれば、ウクライナが2025年8〜9月に攻撃した16の製油所は、ロシアの精製能力の約38%を占める。ただし彼は、これは潜在被害の上限であり、ロシアの製油所は一次蒸留能力に余剰を持つため、実際のガソリン生産の落ち込みは約10%(Kommersant紙の推計)にとどまると指摘する。それでも、最長クラスの攻撃は約1,800キロ先に届いている(Euronews、2025年11月)。前線から10〜15キロの範囲で使われていたドローンが、戦略縦深を攻撃する兵器にまで用途を広げた。


射程を伸ばす方向とは別に、速度を上げる方向もある。CSISのBondarとBendettによれば、ターボジェットエンジンを積んだ「ミサイルドローン」も登場し、巡航ミサイルと無人機の区別があいまいになりつつある。ロシアも、Shahed(Geran)にジェットエンジンを積む改良を進めている。安価な自爆型が、より速く、より遠くへ向かうことで、ミサイルに近い性能へと近づいている。


海のMaguna、対ドローンのSting、地上のUGV

無人化は、陸と空だけでなく、海にも、対ドローンにも広がった。

海上USV(無人水上艇)には二つの系統がある。ウクライナ国防省情報総局(HUR)が運用するMagura(マグラ)と、ウクライナ保安局(SBU)が運用するSea Baby(シー・ベイビー)である(CSIS)。Maguraは対空能力まで備えている。2024年12月31日、R-73空対空ミサイルを積んだMagura V5が、クリミア西部タルハンクート岬付近でロシアのMi-8ヘリコプターを撃墜した。さらに2025年5月2日、ノヴォロシースク沖でMagura V7がAIM-9サイドワインダーでロシアのSu-30SM戦闘機2機を撃墜した。HUR長官キリロ・ブダノフは、これを海上ドローンがジェット戦闘機を撃墜した初の事例だと主張している(Naval News、米海軍協会USNI)。海上の無人艇が、制空権の一角にまで関与したことになる。


対ドローン用の迎撃機も現れた。ウクライナの義勇団体ワイルド・ホーネッツ(Wild Hornets)が作る「Sting(スティング)」は、一機約2,500ドル。時速280キロを超える速さで上昇し、交戦距離は最大約25キロ、高度数キロを飛ぶシャヘド型を迎撃する。同団体は、2025年10月までにStingが1,000機以上の敵ドローンを撃墜したとしている。数万ドルのShahedを、数千ドルの機体で撃墜する。コストの逆転を、防御側が取り返す構図である。


無人化は地上にも及ぶ。CSISは、負傷者の搬送や物資補給、地雷の敷設・除去を担う地上無人車両(UGV)や、地雷を積んで塹壕へ突入するカミカゼ型(単価およそ2,000ドル)の登場を記録している。ただし、直接敵を攻撃する型のUGVは、精度の問題から実戦での役割はまだ限定的だという。


対ドローン迎撃機Sting(https://wildhornets.com/en/sting-interceptor)
対ドローン迎撃機Sting(https://wildhornets.com/en/sting-interceptor

【まとめ】FPVから広がったドローンの多様化

2025年に起きたのは、一つの機体が、戦場の要求に応じて多数の型に分かれていく過程だった。ジャミングが光ファイバー機を、短い射程がマザーシップと長距離機を、速度の追求がジェット型を、重い弾と夜間の必要が重爆撃機を、黒海の制海と飛来するシャヘドが海上艇と迎撃機を生んだ。


共通するのは、どの型も、高価な既存兵器の役割を、桁違いに安い無人機で置き換えようとしている点である。敵陣のインフラ、製油所、ヘリコプター、戦闘機など、かつては有人の航空戦力や巡航ミサイルが担っていた標的に、数千ドルから数万ドルの機体が届くようになった。では、これほど多様で大量のドローンを、誰が、どうやって作り続けているのか。次回はその生産の仕組みを見る。


出展

最新記事

bottom of page