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戦果をポイントに換えて武器を買う:ウクライナのドローン生産/調達の仕組み(ウクライナ・ロシア戦争)

  • 執筆者の写真: 安田 和貴/Yasuda Kazuki
    安田 和貴/Yasuda Kazuki
  • 7月22日
  • 読了時間: 8分

更新日:7 日前

前線の部隊が、戦果に応じて与えられる「戦闘ポイント」で、必要なドローンを自分で発注する。ウクライナはこの仕組みを実際に動かしている。新しい機体をテストから契約まで約1週間で導入する速さも、同じ流れの一部だ。同じことに米国防総省なら数年かかる、とCSISは指摘する。「ウクライナ戦のドローン図鑑:FPV・光ファイバー・海上・迎撃」で見たとおり、ウクライナのドローンは驚くべき速さで多様化したが、速いのは機体の進化だけではない。買い方(調達)と、学び方(戦場の知見の共有)そのものが速い。その背景には、2,500社が集まる国内の生産網と、戦場の教訓を全軍に配る新設の軍種がある。


テストから契約まで1週間の調達

CSIS(米戦略国際問題研究所)のKateryna BondarとSamuel Bendettによると、ウクライナの調達は、前線に近い条件で試し、効果を確かめ、製品を選んで契約を結ぶ。この一連を約1週間で終える。両氏はこれを米国防総省(DOD)と対比しており、DODでは予算を要求する会議を誰に頼めばよいかを突き止めるだけで1週間かかり、ほぼ何をするにも数年を要するとしている。


ウクライナにおける、この速さを支えるのが「Brave1(ブレイブ・ワン)」である。2023年4月に、デジタル変革省を中心として、国防省、参謀本部、国家安全保障国防会議、戦略産業省、経済省の6機関が共同で立ち上げた、民間の開発企業・軍の需要・政府の資金を一か所につなぐ国のプラットフォームである。開発者を登録し、助成金を出し、前線での試験を仲介し、採用までの道筋をつける。それまで各所に分かれていた防衛テックの窓口を、一本化した仕組みである。


試験の仲介においては、Brave1が戦闘に近い条件での大規模な試験を自ら主催している(defence-industry.eu)。さらに前線を海外企業にも開放した。「Test in Ukraine(ウクライナで試す)」の枠組みでは、企業が自社の技術者を現地に派遣して前線部隊のそばで試してその場で手を入れる方法と、Brave1に委託する方法がある。Brave1への委託では、オンラインの説明を受けたあとBrave1が試験を手配し、性能の分析と使った兵士の評価をまとめた報告書が企業に返る。輸入手続きやデータの扱い、壊れた機材の後始末までの支援もつく。ドイツのDiehlが第1号の参加企業となり、2026年にはエアバスも加わった。応募は45社に上ったと報じられている(The Defense Post)。


Brave1のWebsite(https://brave1.gov.ua/en)
Brave1のWebsite(https://brave1.gov.ua/en

部隊が戦闘ポイントで装備を発注するBrave1 Market

Brave1が担うのは試験と契約だけではない。2025年4月には、部隊が装備を自分で選んで発注できるオンライン市場「Brave1 Market」が立ち上がった。当初は部隊予算での購入だったが、その後、戦果に応じて付与される「戦闘ポイント(ePoints)」で発注する制度が加わった。


ウクライナ国防省が2026年6月24日に公表した説明によれば、手順は次の通りである。部隊が戦闘任務を遂行してポイントを得る。そのポイントを追懐、Brave1 Market上の800種類以上の製品から必要なものを選ぶ。すると、製造業者へ直接発注がされる。書類手続きは不要である。支払いと配送は「DOT-Chain Defence」が担う。これは国防省が運営する調達プラットフォームで、部隊が承認済みのカタログから選ぶと、国防調達庁(DOT)が契約・支払い・物流を引き受けている。ウクライナ・プラウダによれば、発注から納品までは平均9日である。


ポイントは敵の撃破だけでなく、偵察・兵站・救護の任務も対象としている。成果を上げた部隊ほど多くのポイントを持ち、より高度な装備を注文できる。発注できるのは、FPVドローン、重爆撃ドローン、地上無人車両(UGV)、電子戦システムなどである。同省によれば、400を超える戦闘部隊がこの制度に参加し、1年足らずで330億フリヴニャ(およそ8億ドル)の装備を発注した。ドローンの発注は累計50万機を上回る。前線の部隊が、自分の戦果を元手に、必要な機体をその場で選んで買っていることになる。


Brave1は資金の出し手でもある。ウクライナのIT媒体dev.uaによれば、電子戦から攻撃ドローン、無人艇、ミサイルまで9分野70の技術領域を対象に、2025年末までに27億フリヴニャが開発企業へ交付される計画である(2025年8月時点)。1件あたりは50万〜800万フリヴニャが基本で、規模拡大向けには最大1億5,000万フリヴニャの枠も設けられている(thedefender.media)。


国内に散らばる2,500社の生産網

この速さは、生産の担い手の広さと分散に支えられている。Brave1のクラスターには約2,500社が名を連ね、そのうちUAV(無人機)メーカーだけで500社を超える。CSISのBondarとBendettによれば、ウクライナは民間の市販技術を軍に取り込む手続きを簡素化してきた。多数の小さな企業が競い合い、その製品を軍が短期間で採用する。これが供給網の実体である。


この2,500社には、戦争のなかで生まれた企業も、それ以前からの技術を持ち込んだ企業も混じっている。前者の例が、大手のTAF Dronesである。CEOのオレクサンドル・ヤコヴェンコは2022年12月、慈善団体としてドローンを買い集め、兵士に無償で配りはじめた。2023年初めには、兵士が自分で組み立てるための部品を供給していた。だが慈善団体のままでは生産を拡大できないと政府に指摘され、同年11月、自身の物流会社の一部門として登記し直す。いまはFPVや偵察ドローン、電子戦システムを作るウクライナ最大級のメーカーの一つである(「10 Ukrainian drone makers to watch」UAS VISION掲載、2025年3月)。


後者の例が、群制御のSwarmerだ。一人の操縦者がAIで複数の自律ドローンを同時に動かす技術で、最初の試験は侵攻前の2020年にさかのぼる。2024年8月にBrave1へ参加し(米軍事専門メディアDefense One)、2026年2月には米ナスダックへの上場を申請したと報じられている(Euromaidan Press)。


防衛テック企業に対する資本も入りはじめている。欧州政策分析センター(CEPA)のAnatoly Motkinによれば、2025年にウクライナの防衛テック新興企業は民間のベンチャー・エンジェル投資から1億500万ドル超を調達した。元グーグル最高経営責任者のエリック・シュミットも、2023年に立ち上がったD3(Dare to Defend Democracy)というファンドの出資者に名を連ねている(ウクライナのIT媒体AIN)。D3は、先に挙げたSwarmerにも出資している(thedefender.media)。


また、ウクライナが利用しているドローンの多くが国内で作られている。Georgetown Security Studies Reviewのマリアム・ハルスティアンは、2024年のウクライナのドローン生産の96%が国内産だったと記す。「ドローンが変えた消耗戦:砲兵を超えた損害と、逆転した兵器のコスト」で見た「年産200万機」という数字は、単一の巨大工場ではなく、無数の国内メーカーの合算なのである。輸入に頼れば、相手や仲介国の都合に供給を左右される。国内に分散させることは、速さと同時に、断たれにくさ(冗長性。一部が止まっても全体は動き続ける仕組み)も確保していた。


戦場の知識を集約する無人システム軍

速さのもう一つの源が、2024年に新設された軍種である。ゼレンスキー大統領は2024年2月に無人システム軍(Unmanned Systems Forces)の創設を指示し、同年6月11日に正式発足、初代司令官に大佐ヴァディム・スハレフスキーが就いた(2025年6月にロベルト・"マディャール"・ブロウディが後任)。英防衛情報のJane'sは、これを「世界初の無人専門の兵科」と報じた。


だが、その主な仕事は戦うことではない。CSISのBondarとBendettによれば、無人システム軍の中心的な役割は、戦場の経験を集め、どのシステムがどう使われているかの知識を前線と各部隊に配ることにある。集めた知識を束ね、指針と標準を作り、ドクトリンに組み込むことが、この軍種の主な任務だという。つまり、個々の部隊が現場で見つけた効く戦い方を、素早く全軍の共有財産に変える仕組みである。発足当初は数千人規模だったが、IISS(英国際戦略研究所)は2026年、この軍種が約2万人規模に育ったと推計している。


統一されない規格と標準化の課題

一方で、この速さは別の問題も生んでいる。BondarとBendettは、ウクライナがぶつかったもう一つの問題を「テクノロジーの動物園(a zoo of technology)」と呼んでいる。メーカーも規格もばらばらな機体が大量に混在し、互いに接続できない。「ウクライナ戦のドローン図鑑:FPV・光ファイバー・海上・迎撃」で見たドローンの多様さは、同時に統合の難しさでもある。


Georgetown Security Studies Reviewのハルスティアンも、製品の多様さが品質の一貫性を難しくすると指摘し、標準化の必要と、政府調達の契約期間を1年から2〜3年へ延ばす必要を論じている。1年契約では、企業が長期の設備投資に踏み切りにくいからだ。安く速く大量に作ることを可能にした民間主導の仕組みが、そのまま規格の不統一も生んでいる。


出典

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